モデルの構築
1976年,Allen Newell とHerbert Simon は,「これまでに人工知能あるいは計算機科学がはたしてきた最も重要な貢献は,われわれの心についての科学的理解を構築,記述する際に物理記号系という概念を導入したことである」といている.
人間はモデルを使い仮定やシミュレーションを行って,まだ起きていない事象についての事前の情報を得る.だが,モデルがほぼ原型どおりに機能するか変化するかでなければ,よしとされないだろう.これは実際に存在する前,あるいは実際にそうなる前にこうであろう,こうするだろうと人が理解するのに必要な条件である.さまざまな機能と伝達手段を連結した情報処理システムでは,コンピュータがモデル構築の望ましい工房と思われる.
ネットワークという一般的趨勢には反するが,ここでは簡素化を心がけて一台きりの完璧なコンピュータを想定して,検討を進めよう.
コンピュータへの理解を深め,プログラミングまでやるには,コンピュータの小型化とか高速性はひとまず退けて,容積と時間を百万倍に広げてみる.そうすると,ワンチップのマイクロプロセッサーに,一秒間の稼働が百の作業部署を有する工場と相当になる.こうした工場を,解剖学的に観察すると,制御管理,点検,選別前処理,循環,処理が行う部署があり,これらをコンピュータ機能に当てはめると,次にまとめられる.・Master Clock これにはレジスタ(register)と呼ばれる選別前処理と転送の機構が伴う(経路管理)
・記憶装置,すなわちRAMあるいは作業領域(材料置場と倉庫)
・処理回路,すなわち基本命令の encoder/decoder(工場とその組立てライン)
機械を解剖学的に見ると,システムの基礎は,レジスタ,回路,メモリー・アドレス(memory address)などと共通の大きさを持つ機械語と考えられよう.一方,生理学(ソフトウェア,記号言語)的に見ると,処理装置のencoder/decoder が実施する基本操作単位(ある数の異なる基本操作)が基礎になっている.Clock, RAM, encoder/decoder,これらの交換作用は,Bus(転送ルート)の本数がますますふえたり分化したりするので,実際はもっと複雑である.このような中央処理装置 (CPU)の構成と人間の脳の仕組みは非常に類似している(大きな違いは人間頭脳は並列処理をしていることだが).
ここで,人間の認知行動を一つの全体としてとらえる,経験や学習あるいは見たり聞いたりしたことによって知識を獲得する人間の知的プロセスということができる.
このようにして認知は意識水準にまで上がってきて,能動的・主観的性格を伴っており,理解が伴っている.認知された経験や,新しい情報が学習されるプロセスは,単に記憶機構に蓄えるられるのではなく,意識されて概念構造を形成し,それ以後に獲得される経験・知識を記述するための中心的役割を果たすことになる.
情報,知識という言葉が混然と使われていることが多いから,ここで次のように区別する.つまり,外部世界の事象がセンサーを経由してデータとして入力する.このデータは外部システムの事象をそのままキャッチしたものであるから,雑音や不必要なデータが含まれていることがある.人間の場合は,目的とする事象だけ見て,不必要なものは見ないといった認知的情報処理が行われているので,この雑音や不必要なデータは除かれている.このデータは,整理されて情報となる.この情報が概念化(体系化)されたものが,知識となって長期記憶に入力する.
このように知識は,必要とする人にとって価値があるという性質のあることも記憶となる.このような情報が知識となるためには,適切な構造がなくてはならない.どのように構造化(体系化)するかは,その知識利用目的から決められる.Bartlett(1932)は知識構造のモデル(スキーマ)について次のように述べる,「頻繁に生じる物事の型についてのモデルで,過去の反応や経験で構成される活動組織体のことで,それはよく適合した組織的反応の中で常に動作していなければならない」.ここでよく使われるスキーマには,意味ネット(出来事と対象を表現する方法),フレーム(複雑な対象を複数観点から表現するための論理的なモデル),スクリプト(よくある出来事の流れを表現する),規則モデル(IF-THEN-DO 形式のプロダクション・ルールで知識を表現する)などがある.
われわれの記憶が二つの時間域に峻別されている.つまり,短期的には伸縮性ある記憶,いわば直接的意識とリアルタイムの情報処理,長期間記憶には次第に固定され呼び戻しにくくなる記憶(潜在意識)あるいは制御しにくくなる記憶(遺伝による伝達)に分かれる.大雑把に言うと,精神の可動性と知識が結びつくように,印象の存続と永続する文化とが結びつくのだろう.
人間は口伝えによるコミュニケーションを始め,知り得た領域,開発する領域,支配する領域を拡大して,効用性を常に高めていくノウハウと技術など,永続性ある知識が貯えられていく.メッセージには,言葉,行動の基準,規範(外部の基準)を媒介=インターフェ-スとして交換される集団記憶は欠かすことができない. 集団記憶はあらゆるコミュニケーションのシステムの先立つ,いわば川上の記憶で,行動の基準となる最少の集団記憶と言える.情報処理でこれに相当するのは,すべてのプログラム,つまり一定の言語で書かれるすべてのメッセージの川上にあるコンパイラー (compiler,プログラミング言語で書いたプログラムを機械が読み取れる機械語に翻するプログラム)である.この機械化された情報処理から現れ出る基準は,明らかに,既知のデータや命令の形式化に欠かせない道具,つまり最少の記憶の発生の創造的部分である.
記憶から計画への過程は個人の創意に属する.個人は肉体や生命の有限性につきあたり,時間と空間の制約や,それから生じる物理化学的条件の制約に縛られていることを感じている.これに集団の創意が加わる.たとえ偶然からでもひとたび個人によるこうしたメカニズムがえられると,種を構成する各個体の能力範囲や限界,更には運命をも超えることが可能である.
人間の認知・行動について論じてきたが,いまこれを要約的に図示すれば,次のように展開されることができる(図 12-1)
人間の活動についての仮定は,人間の本質,人間関係,現実・空間・時間・環境の本質に対する仮定と深く結びついて,それは第一に,特定の文化的背景の下で高度に組織化された認知様式,第二に,このような認知様式が知識へのルートをつくる.第三に,文化的に異なった情報処理の形態を扱うことによって,文化について語ることは,認知レベルで語るという広く認められている様式と本質的に同じ基盤に立つことができる.
3 モデルの仕組み
内部システムの核を導入
各構成部に合致した機能、構造の準拠を用意する。
動機・欲求付け → パタン導入 → 知識ベースへ連結
よく使われる行動(時間関数)を利用して、実行の効率を改善する。
外部システムとの連結(ネットワーキング)
受け手と与え手に対する情報の表示様式や、入力 方式を規定する。メッセージの送受信の単・複数の者が対象となる事項を確実に 実行するための手順等について規定し、情報を受信しながら同時に状況対応を行なう方法を備える。
違う主体間やネットワーク間を乗り越える仕組み、ネットワーク経由の遠端喚起方法(一対一、一対多数。集中管理、集中行動。分散管理、分散行動。集中管理、分散行動)を備える。
人間はモデルを使い仮定やシミュレーションを行って,まだ起きていない事象についての事前の情報を得る.だが,モデルがほぼ原型どおりに機能するか変化するかでなければ,よしとされないだろう.これは実際に存在する前,あるいは実際にそうなる前にこうであろう,こうするだろうと人が理解するのに必要な条件である.さまざまな機能と伝達手段を連結した情報処理システムでは,コンピュータがモデル構築の望ましい工房と思われる.
ネットワークという一般的趨勢には反するが,ここでは簡素化を心がけて一台きりの完璧なコンピュータを想定して,検討を進めよう.
コンピュータへの理解を深め,プログラミングまでやるには,コンピュータの小型化とか高速性はひとまず退けて,容積と時間を百万倍に広げてみる.そうすると,ワンチップのマイクロプロセッサーに,一秒間の稼働が百の作業部署を有する工場と相当になる.こうした工場を,解剖学的に観察すると,制御管理,点検,選別前処理,循環,処理が行う部署があり,これらをコンピュータ機能に当てはめると,次にまとめられる.・Master Clock これにはレジスタ(register)と呼ばれる選別前処理と転送の機構が伴う(経路管理)
・記憶装置,すなわちRAMあるいは作業領域(材料置場と倉庫)
・処理回路,すなわち基本命令の encoder/decoder(工場とその組立てライン)
機械を解剖学的に見ると,システムの基礎は,レジスタ,回路,メモリー・アドレス(memory address)などと共通の大きさを持つ機械語と考えられよう.一方,生理学(ソフトウェア,記号言語)的に見ると,処理装置のencoder/decoder が実施する基本操作単位(ある数の異なる基本操作)が基礎になっている.Clock, RAM, encoder/decoder,これらの交換作用は,Bus(転送ルート)の本数がますますふえたり分化したりするので,実際はもっと複雑である.このような中央処理装置 (CPU)の構成と人間の脳の仕組みは非常に類似している(大きな違いは人間頭脳は並列処理をしていることだが).
ここで,人間の認知行動を一つの全体としてとらえる,経験や学習あるいは見たり聞いたりしたことによって知識を獲得する人間の知的プロセスということができる.
このようにして認知は意識水準にまで上がってきて,能動的・主観的性格を伴っており,理解が伴っている.認知された経験や,新しい情報が学習されるプロセスは,単に記憶機構に蓄えるられるのではなく,意識されて概念構造を形成し,それ以後に獲得される経験・知識を記述するための中心的役割を果たすことになる.
情報,知識という言葉が混然と使われていることが多いから,ここで次のように区別する.つまり,外部世界の事象がセンサーを経由してデータとして入力する.このデータは外部システムの事象をそのままキャッチしたものであるから,雑音や不必要なデータが含まれていることがある.人間の場合は,目的とする事象だけ見て,不必要なものは見ないといった認知的情報処理が行われているので,この雑音や不必要なデータは除かれている.このデータは,整理されて情報となる.この情報が概念化(体系化)されたものが,知識となって長期記憶に入力する.
このように知識は,必要とする人にとって価値があるという性質のあることも記憶となる.このような情報が知識となるためには,適切な構造がなくてはならない.どのように構造化(体系化)するかは,その知識利用目的から決められる.Bartlett(1932)は知識構造のモデル(スキーマ)について次のように述べる,「頻繁に生じる物事の型についてのモデルで,過去の反応や経験で構成される活動組織体のことで,それはよく適合した組織的反応の中で常に動作していなければならない」.ここでよく使われるスキーマには,意味ネット(出来事と対象を表現する方法),フレーム(複雑な対象を複数観点から表現するための論理的なモデル),スクリプト(よくある出来事の流れを表現する),規則モデル(IF-THEN-DO 形式のプロダクション・ルールで知識を表現する)などがある.
われわれの記憶が二つの時間域に峻別されている.つまり,短期的には伸縮性ある記憶,いわば直接的意識とリアルタイムの情報処理,長期間記憶には次第に固定され呼び戻しにくくなる記憶(潜在意識)あるいは制御しにくくなる記憶(遺伝による伝達)に分かれる.大雑把に言うと,精神の可動性と知識が結びつくように,印象の存続と永続する文化とが結びつくのだろう.
人間は口伝えによるコミュニケーションを始め,知り得た領域,開発する領域,支配する領域を拡大して,効用性を常に高めていくノウハウと技術など,永続性ある知識が貯えられていく.メッセージには,言葉,行動の基準,規範(外部の基準)を媒介=インターフェ-スとして交換される集団記憶は欠かすことができない. 集団記憶はあらゆるコミュニケーションのシステムの先立つ,いわば川上の記憶で,行動の基準となる最少の集団記憶と言える.情報処理でこれに相当するのは,すべてのプログラム,つまり一定の言語で書かれるすべてのメッセージの川上にあるコンパイラー (compiler,プログラミング言語で書いたプログラムを機械が読み取れる機械語に翻するプログラム)である.この機械化された情報処理から現れ出る基準は,明らかに,既知のデータや命令の形式化に欠かせない道具,つまり最少の記憶の発生の創造的部分である.
記憶から計画への過程は個人の創意に属する.個人は肉体や生命の有限性につきあたり,時間と空間の制約や,それから生じる物理化学的条件の制約に縛られていることを感じている.これに集団の創意が加わる.たとえ偶然からでもひとたび個人によるこうしたメカニズムがえられると,種を構成する各個体の能力範囲や限界,更には運命をも超えることが可能である.
人間の認知・行動について論じてきたが,いまこれを要約的に図示すれば,次のように展開されることができる(図 12-1)
人間の活動についての仮定は,人間の本質,人間関係,現実・空間・時間・環境の本質に対する仮定と深く結びついて,それは第一に,特定の文化的背景の下で高度に組織化された認知様式,第二に,このような認知様式が知識へのルートをつくる.第三に,文化的に異なった情報処理の形態を扱うことによって,文化について語ることは,認知レベルで語るという広く認められている様式と本質的に同じ基盤に立つことができる.
3 モデルの仕組み
内部システムの核を導入
各構成部に合致した機能、構造の準拠を用意する。
動機・欲求付け → パタン導入 → 知識ベースへ連結
よく使われる行動(時間関数)を利用して、実行の効率を改善する。
外部システムとの連結(ネットワーキング)
受け手と与え手に対する情報の表示様式や、入力 方式を規定する。メッセージの送受信の単・複数の者が対象となる事項を確実に 実行するための手順等について規定し、情報を受信しながら同時に状況対応を行なう方法を備える。
違う主体間やネットワーク間を乗り越える仕組み、ネットワーク経由の遠端喚起方法(一対一、一対多数。集中管理、集中行動。分散管理、分散行動。集中管理、分散行動)を備える。
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