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プロセスとしての組織観

各主体は,限られた合理性・認知能力のもとに,さまざまの事実のなかから自らの状況を認識し,自らの状況イメージを形成し,問題にあたることになる.そして,そのさいの有力な準拠枠(a frame of reference for his thinking)が制度にほかならない.そのような意味で,それはまずもってなんらかの強制力をもつ解釈ルールとして機能することになる.  しかし,制度を通じることなく状況に対処できる主体の能力が問題となる場合は,既存の制度そのものの不信を招き,組織全体は一挙に状況化する事になる.とくに,そうした新しい動きによって,現体制の既得権益がはげしく脅かされたりまた脅かされる可能性のあるときは,新旧の間でヘゲモニーを握った主体は,自らの権力を保持・強化するために,自らを頂点にした権力構造の維持・強化をはかっていこうとする.これは,自らが目標達成の手段にしかすぎなかった権力が,目的そのものへと転化していくプロセスでもある.  S.N.Eisenstadt は個人的自律性と社会秩序を調停するという問題が,含まれているとみている.彼は,交換の媒体が制度化され,象徴的であるときに,それらは多様な交換関係に一般化できるのである.それは,つまり,社会的価値を象徴的財とみなしている(それには愛国心といった「公共財」がふくまれる).これらの財の保持者または,カリスマをもったエリート調達者は,それぞれのバランスと保持する人たちの味わう満足感を高揚する.かくて,カリスマ的エリートは社会の下位単位によって把握されているより特殊的な価値の新しい総合を遂げることにより制度形成過程において戦略的役割をはたすのである.  Riesman,D.(1961)は,状況的強制力の存在を拒否権行使集団への権力の拡散による各単位間の反応の類似性に求めた.それは集団成員の大部分の人々が共有している心理的特性であるが,さまざまの社会諸集団に共通の経験からうまれた制度や伝統,規範が個人を拘束したり心理的に負担をかけるのを,個人が自己のもつ欲求性向と矛盾しない形で解決するメカニズムであり,したがって,文化的規制が心理的次元に表出されたものなのである. 個人のレベルであれ組織のレベルであれ,その介在的作用は,政治に対する個人や組織のもつ基本的態度によって影響されるのである.これは政治と文化の関係,...

判断のコア

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岩の上に自分の家を建てた賢い人にたとえよう。 判断のパラドックスを引き起こすためには、自己言及とともに真偽の反転が必要である。相対主義のパラドックスにおいても相対主義の主張が絶対主義的であると考えられるが故にパラドックスを引き起こすわけである。なお、ゲーデルの不完全性定理の証明に用いられるゲーデル命題は「この命題は証明できない」 という意味のものであるが、この場合、上記命題が証明できなくとも、それ故に正しいと考えれば、真偽の反転は起きず、パラドックスにもならない。 公理的集合論(axiomatic set theory)におけるパラドックスの回避には公理Ⅱ Pは性質のひとつであれば、 \exists A(\forall x(x\in A P(x)\wedge Set(x)))。 残る未解決の Set(x ) は挑戦しなければ道は開けない、挑戦すれば道が開けることもある。 ----------------------------------------------------------------------------------------------- 時と機会はだれにも臨むが 未来は可能性、方向性、色々な事件、屈折的な過程それと驚異の集合体である。 人、もの、ことを変化すれば、新しい関係は需要と機会も生まれる。時と機会が掴むには、的確な判断力と行動力を自分自身の鍛錬で身に付けていくことだ。 STRATEGIC FIT

モデルの構築

1976年,Allen Newell とHerbert Simon は,「これまでに人工知能あるいは計算機科学がはたしてきた最も重要な貢献は,われわれの心についての科学的理解を構築,記述する際に物理記号系という概念を導入したことである」といている.  人間はモデルを使い仮定やシミュレーションを行って,まだ起きていない事象についての事前の情報を得る.だが,モデルがほぼ原型どおりに機能するか変化するかでなければ,よしとされないだろう.これは実際に存在する前,あるいは実際にそうなる前にこうであろう,こうするだろうと人が理解するのに必要な条件である.さまざまな機能と伝達手段を連結した情報処理システムでは,コンピュータがモデル構築の望ましい工房と思われる.  ネットワークという一般的趨勢には反するが,ここでは簡素化を心がけて一台きりの完璧なコンピュータを想定して,検討を進めよう.  コンピュータへの理解を深め,プログラミングまでやるには,コンピュータの小型化とか高速性はひとまず退けて,容積と時間を百万倍に広げてみる.そうすると,ワンチップのマイクロプロセッサーに,一秒間の稼働が百の作業部署を有する工場と相当になる.こうした工場を,解剖学的に観察すると,制御管理,点検,選別前処理,循環,処理が行う部署があり,これらをコンピュータ機能に当てはめると,次にまとめられる.・Master Clock これにはレジスタ(register)と呼ばれる選別前処理と転送の機構が伴う(経路管理)   ・記憶装置,すなわちRAMあるいは作業領域(材料置場と倉庫) ・処理回路,すなわち基本命令の encoder/decoder(工場とその組立てライン)  機械を解剖学的に見ると,システムの基礎は,レジスタ,回路,メモリー・アドレス(memory address)などと共通の大きさを持つ機械語と考えられよう.一方,生理学(ソフトウェア,記号言語)的に見ると,処理装置のencoder/decoder が実施する基本操作単位(ある数の異なる基本操作)が基礎になっている.Clock, RAM, encoder/decoder,これらの交換作用は,Bus(転送ルート)の本数がますますふえたり分化したりするので,実際はもっと複雑である.このような中央処理装置 (CPU)の構成と人間の脳の仕組みは非常に類似してい...

戦略決定の問題

 組織における広義の意思決定過程には,課題の明確化(決定の必要性その他の背景の理解,方向づけ),案(選択肢)の探索また創出,案の比較評価または修正,決定に必要な合意の調達,所定の決定手続の履行が含まれる.  狭義の決定過程すなわち上記のうち最後の過程(決定の手続ないし方式)にはさまざまなものがある.11-1表 は Smoke,W.H. & Zajonc,R.B.(1962)による類型化と選択肢Aを支持する確率Pである成員n人から成る集団において選択肢Aが集団決定に採択される確率h(P)とを数学的モデルとして示している.    11-1表 決定の方式と集団決定の確率 Adapted from Smoke & Zajonc ,1962,pp.322-333. Davis,J.H.(1973) は,所与の選択肢に対する成員個々人の選好が,集団の決定にどのように変換されていくかを研究する一つの用具として社会的決定方式の理論(Social decision scheme theory)を提唱し,多数決,相対多数決,比例モデル,等確率モデル,ロージ=ソロモン・モデル(正しい意見が説得力をもつことを前提としたモデル)などほか,陪審員会議に最もよく適合する特殊なモデルなどについて検討している.  成功の確率は低いが成功すっれば大きな利得がえられる(と同時に,大きな損失を招く失敗の確率が高い)選択肢から成功の確率は高いが成功時の利得が小さい選択肢まで複数の選択肢があって,その中から一つを選ぶ決定は,リスクを含む決定とよばれるが,1960年代の初めにリスクを含む決定と極化 (polarization)現象という実験結果が報告され,いわゆる「冒険的移行」(risky shift)現象として注目された.(Pruitt,D.G.,1971)  どうしてこのような現象が生じるのかをめぐってさまざまな説が実験的データとともに提唱された.個人的な責任がなければ人は危険に走りだがる,ということである(責任分散説),集団で衆知が集められることによって問題が一層熟知され不安が軽減されるからだとするもの(熟知説),勇敢な主張をする成員あるいは主張そのものが集団をリードしやすいからだとするもの(リーダーシップ説)などであったが,その後問題によっては一貫して集団の方が個人の平均よりもいっそ...

現代経営組織の管理問題

 ホーソン実験の成果を1930-40年代に理論化したのが人間関係論である.1920年代の産業合理化運動以降,機械化の進展は,労働の細分化,標準化,単純化をもたらし,労働効率を増大させた.その結果,単調感,疲労感が強まり,労働者の能率を低下させると同時に彼らの不平,不満と反抗心を高めた.29年大恐慌はこの傾向をよりいっそう進め,1930年代は,労働者の団結権,集団交渉権,ストライキ権の認め,不当労働行為を禁止した全国労働関係法(1935年)や公正労働基準法(1938年)の制定と産業別労働組合会議の成立により,企業は,労働者の不平・不満が労働組合運動に向かわないように,一定の満足感を与えることが必要とされた (Mayo,E.,1945).  そこで,Mayo は集団相互間に存在する協働意欲の減退という現象を管理問題にお再検討によって解決しようとしたのである.彼は,社会的・人間的能力をもつ管理者が,組織のなかに協働関係をもった集団を作り出すという方法を主張する.この点で彼は,人間を連帯的・献身的・感情的にとらえる管理の必要性を主張したのである.  Roethlisberger(1939,1941) は,企業を経済目的遂行の組織だけでなく,そこで働く人間・集団を効果的に協力させる人間的な組織とみる.人間の協働が感情の問題であると主張した.(Etzioni,Amitai,1988 は,Socialbonds は競争の社会的抑圧を明らかにした).  感情の表明は,その人の個人的・社会的背景に起因し,その人を取り巻く社会的脈絡から切り離しては理解できない.以上の立場に立って,彼は組織における人間問題を,1 組織内のコミュニケーションの問題,2組織内の均衡状態の問題,3 個々人を状況に有効に適応せしめる問題として扱う.  個人は,技術的,社会的,論理的な才能と態度・信念・生活様式をもって職場状況に置かれる.個人は,その経歴と経験という過去の状況に応じて職場に特定の希望と期待をもつ.さらに,個人は特定の人々と働き,一定の相互に規定・容認された人間関係を作る.また,職場状況や家庭関係といった現在の状況にも影響される.個人の満足・不満足は,彼が以上のような状況に対する要求とその状況が課す要求に関係する.これらが調和しなければ均衡を崩し,不満をもち,協働への意欲を失い,その能力を十分に発揮...

組織と文化における一考察

 組織の存続は環境が不断に変動するなかで,複雑な性格の均衡をいかに維持するかにかかっている.このために組織は外的環境の中での生き残りと適応,生き残り,適応し続ける能力を確保するための内部プロセスの統合が必要である.ところが,これらの過程についての研究は,時には相互に矛盾し,時には観察される行動と一致しない.私たちは実際の行動のかなりの部分は,説明されないままにあるという気持ちが残る.  組織文化はなぜ,そして,どのように人々の行動に影響を与え,影響を受けるかという問題意識から組織行動における経営戦略と組織文化の関連を分析し,組織有効性と戦略評価に対してもつ意味を見出そうと試みているのである. 「組織」という言葉は何を意味するのだろうか?Schein(1980) 組織はまず人々の頭の中で生まれる.組織における人間問題は,一人または複数の人が自分たちの頭の中に生まれたある考えを,どのように二人以上の人々の活動の青写真に転換するかという過程である.また,組織を構成する個人と組織自体が変わり,成長し,発展するにつれ変わることを常に心にとめておくことが必要である. Louis(1983) 組織というものを時間的,空間的に定義するのは容易でない.組織は多くの環境と常に相互に影響するオープン・システム(注1)であり,多くのサブ・グループ,職業単位,階級,地域的に分散した部分から成り立ている.こうしたグループが経験を共有した歴史をもつ安定した単位として定義できれば,彼ら特有の文化を作り上げるのである. 「文化」という言葉は,組織自体や周囲の環境をどうみるか - つまり,ある任意の人々の集まりが,外部的・内部的問題を解決する過程でかなりの数の重要な経験を共有したと証明できれば,このような共通の経験によって,やがて,周囲の世界やそこでの自らの位置について,彼らは共有の見解をもつようになるとみなすことができる.文化とは,この意味で,グループの経験によって習得された産物であり,したがって,それなりの歴史をもった定義可能なグループが存在するところだけに見いだされるものなのである.(Schein,1985) 組織の研究,あるいは組織との関連における人々の行動の研究をすすめようとすれば,どうしても「個人とは何か」「人間とは何を意味するのか」「人はどの程度まで選択力や自由意思をもつものか...

学習された解とは

Homans(1950)は,いかなる社会的システムも3種の環境,すなわち物理的環境(地域,気候など),文化的環境(規範,価値観,その社会の目標)および技術的環境(仕事を遂行する上でそのシステムが活用できる知識と手段の状態)の中に存在する.  人間の活動のうちで,生物学的種としての人間が,生まれながらに持っている欲求や動機によって決定されっているのは,ほんの一部にすぎないということである.それよりもはるかに大きな決定要因は私たちが学習した動機や反応の仕方であるが,これらはいずれも,われわれの文化,家庭状況,社会経済の背景- 環境や,ある時点における「いま,ここで」の - 状況,を反映している.つまり,われわれの動機や欲求は,自分がおかれている状況をどうみるかによって大部分が決まり,その見方自身,大部分がそれまでに行われた学習によってきまるのである.  学習は心理学者によって,刺激にたいする反応におけるかなり永続的な変化として,定義されている (English and English,1958;Hilgard, 1956:3;Wickens and Wayer,1955:28). 大部分の学習理論の中核は,刺激- 反応の関係である(表 3-1).刺激は解釈され,個人のなかに反応を作りあげる.後続する刺激によってこの反応を連続的に強化することは,個人の行動に多かれ少ながれ永続的な変化を生み出す.これが学習である.  組織文化は「学習された解」をその主要な要素として定義される.この学習には「積極的問題解決状態」(positive problem-solving situation)と「不安除去状況」(anxiety-avoidance situation)という2つの異なるタイプがある.積極的問題解決状況では,ある問題解決に有効な解が,同様の問題に対して繰り返し適用される.ここでいう解には,特定の行為,問題の認識の仕方や考え方,信念や感じ方,あるいは状況のある側面についての仮定などが含まれ,それらは問題解決に役立つ限り強化される.  これに対して,不安除去状況では,苦痛を取り除いたり,不安を解消するのに役立つ思考様式や感じ方,行動様式を学習する.不安除去状況である認知的反応が学習されると,それは不安や苦痛の原因が見当たらない状況では,一種の「社会的防衛メカニズム」(soci...

オーソリティーについて

Herbert A.Simon (1976)によれば,「オーソリティー」とは,他人の行為を左右する意思決定をする能力(power) として定義された.この意味での権威・権力を他の種類の影響力から区別する特徴は,上役の行動パターン - 命令および選択の基準として他人によってその命令が受容されるだろうとの期待の両方が含まれている.部下の行動パターンは - 代替的諸行動のどれを選ぶかを彼自身の能力できめることをやめ,選択の基礎として命令あるいは信号を受容するというフォーマルな基準を用いる.  組織が個人に与える影響は,組織によって個人の意思決定が決められてしまうことを意味するのではなく,その個人の意思決定の基礎となっているいくつかの諸前提が,組織によって,個人に対して決められることと,解釈されるのである.  組織された人間の集団の行動において,行動の統一性と調整があまりにも顕著に見られる事が多く,それで多くの社会思想家たちは個人と集団とは相似の関係にあると考えようになった.この調整を可能にしているメカニズムは,簡単には知覚されない.個人の場合には,完全に知覚するいことのできる神経繊維の構造があり,それによって,身体のどの部分からの刺激でも他の部分へと伝えることができるし,これらの刺激を中枢細胞でたくわえ,かつ変形することもできる.社会的集団の場合には,基礎にあるメカニズムの手がかりを探究する際,解剖の対象となる生理学的な構造は存在していない.  このような調整が成就される方法については,まず,行為の計画がつくられ,つぎに,この計画が集団のめんばーに伝達される.この過程の最後の段階は,メンバーによるこの計画の受容である.オーソリティーは,この受容において中心的役割を果たすのである.個人の行動がその集団の他のメンバーの行動を予期し,それに合わせ個人の行動がとられるとき,調整が達成される.そこに含まれている心理的な過程は,完全に熟慮たとか,意識的なものであることはめったにない.調整がもたらされる行動のほとんどは,その大部分が習慣的かあるいは反射的である.組織においては,彼は,伝達された他人の意思決定によって,彼自身の選択が導かれることを許容し,これらの前提の利害得失について彼自身の側でなんら考えることはしない,という一般的な規則を彼自身でつくっている. [権威・権力の範疇と限界...

文化パラダイムの基準とディメンション

 科学史家Thomas Kuhn(1970)によれば,新しいパラダイムは,これまで支配的だったものの見方,考え方が革命的・非連続的に変異することによって,初めて形式されるという.  同じ客観的環境を異なる仕方で理解する集団が複数ある場合,その差異は,まさに「組織文化」こそが意味決定の拠所として利用される知識であり,組織化のプロセスを人々の認知的レベルから規定する要因であるとともに,またそれ自体が組織化の産物であるという認識にもとづいている.  すでに言及されているように,「組織文化」は「ある集団が,外部適応と内部統合に関する諸問題の解決を学習する際に,発明・発見・開発してきた基礎的仮定のパターンであり,良く機能するがゆえに現在でも有効だと考えられており,したがって新しいメンバーにもそうした問題に接したときの正しい認識の仕方,思考方法,正しい感じ方として教え込まれるものである」(E.H.Schein,1985:9) Schein によれば「組織文化」は,その本質である基礎的仮定のパターン (a pattern of basic assumptions)を中心に,図 2-1 に示すような3つのレベルで分析できるという.  図 2-1 組織文化のレベルと相互関係 Adapted from Schein, op.ct.,p.14.  第1のレベルは研究者や組織メンバーが,直接に観察・経験できる「作られた現象」(artifact)レベルの組織文化である.たとえば組織メンバーの行動パターンや,組織内で使用される特異的(idiosyucratic)言語・コード・シンボル,物理的空間配置,関係的なネットワーク,組織における人口統計上の変動などが含まれる.このレベルの文化はさまざまなバリェーションと複雑性をもっているため,組織メンバーの行動パターンがどのようであるかを知ることはできても,いったいなぜそのように振る舞うのかを知ることは,必ずしも容易ではない.  組織メンバーがある仕方で行動するその理由を解明するには,第2のレベルの組織文化,すなわち人々の行動を支配する「価値」(value)を解明しなければならない.あらゆる文化現象は,価値を裏付ける物語が存在する場合や,価値の背後に存在する仮定が明確化されているときにはじめて,実際にとられた行動の一連の合理的解釈ができる.つまり,誰かに...

組織理論の構築について

...矛盾,正式な論理の体系上には失敗の表徴であるが,真実な 知識の進化中には勝利への始りである.(Whitehead,1925)  理論の構築は組織研究の重要な課題の一つである.ほとんどの組織論者は伝統の科学理念の影響をうけて, 「内部構造の一貫性理論」(internally consistent theories)を偏好している(Poole and Van de Ven,1989:562).もし理論の中の理論仮定,解釈,あるいは結論が対立(opposition)または矛盾(contradiction)を含まれると,それはよい理論と思われない.研究者は分析の範囲や内容を注意深く限定し,内的一貫性に適合せねならないのである.しかし,このような理論構築上の厳密さと首尾一貫性(rigor and coherence)は必ずしもよい理論に導くとは限らない(Archer,1982;Bartunek,1984).R.Emerson は指摘したように,「愚かな一貫性は偏狭な識見の係累である」(A foolish consistency is the hobgoblin of little minds, Poole and Van de Ven,1989).組織研究の中で断続な論証や互斥なテーマの多いは無視,拒否されれば,組織理論の発展上の重要な源泉をも失うことになる.最近の組織理論と経営学説の進展は,人間や社会組織のパラドックス現象(paradox)を解釈する方法の必要性が認識された(Cameron,1986).組織研究者は多元的な組織現象を包括的に説明するのに,「内的一貫性」の限界が明らかである.  伝統の科学原則について,よい理論とは「有限の範囲とかなり正確な図像」(limmited and fairly precise picture)の基礎に立っている.その内容はすべて包含することではない.さもなければ,「精約基準」(parsimony criterion)に違反することになるからである(Pfeffer, 1982).研究範囲および条件の叙述は,すなわち,表現制限とする方法の一つである.理論家は理論を構築するために,慎んで仮説や解釈の原理・原則を規約しなければならない.このような規約はその理論が探究される範囲をも示唆している.故に,理論はつねに論者の視野を制限するが,こ...

組織文化の研究の考察

 組織文化の研究は,Pettigrew(1979) の著作を嚆矢として80年代末から,しだいに新たな研究領域として形成されつつある. 組織論者および実務家はパラダイム交替(paradigmatic-shift)の観点か,または道具価値(instrumental value)のパスペクティブか,組織文化の研究モデルを構築している.パラダイム交替論者の Smircich(1983,1985)は組織文化をメタファーと見ている(Organizational culture as a etaphor).彼は,メタファーの虚幻(falsehood)的想像空間を運用して,組織分析上の言語を再構築すべきだと指摘した.組織を哲学者として (Organization as a philosopher),機械的,有機的なメタファーが分析できない組織現象,例えば,構造化無秩序 (organized anarchy),組織政治 (organiza-tional politics),曖昧と変化(ambiguity and change)などを解読できればと期待している(Frost,etal,1991;Martin,1992;Morgan,1980,1986, 1989). 道具価値論者, Saffold III(1988)は,組織文化を不確定要素(organizational as variable)とみなし,組織プロセスの側面から,組織文化の効用を探究する.それによって組織効果の尺度的な次元や枠組をも提供できると指摘している.(表 1-1 )  上述のメタ理論構築上の分岐は,時間と共に埋め合わせるか却ってだんだん分離(divergence)現象が見えてきた.組織文化論者Martin(1991, 1992)は,このような文化研究の多元的分岐を三つに分類した.(表 1-2 )  組織文化の研究は,理論上のコンセンサス(theoretical consensus)が欠くために,実証内容の採択に限らず,必要であるべき価値の選択までパラドックスに遭うのである.このような状況では有効な相関知識を蓄積することができないだけではなく,理論間の対話さえできないことになった.(Frost,etal,1991;Martin,1992)  このようなコンテクストゆえに,さまざまな概念上の混乱がみられた. そこで...

戦略の概念の歴史的背景

さて,Chandler(1962) の「経営戦略と組織」により提起された戦略の概念の歴史的背景及びその後の変化を考察することにしよう.  二十世紀の最初の三十年間は,最低販売価格で製品を提供した企業が成功を収めた.大部分の製品はまだ差別化されおらず,単位当り最低の原価で製品を生産する能力こそが,成功への秘訣であった.1930年代の初期には,ゼネラル・モーターズ社は,生産重視思考から市場重視思考へ転換の引き金を引いた.毎年のモデル・チェンジの導入は,標準製品から差別化製品への転換の象徴であった.それ以前の「生産志向」とは対照的に,成功への新しい秘訣は,「マーケティング志向」へ転換し初めたのである.販売促進,広告,販売,消費者に影響を与える方式が,経営の最優先の関心事になった.  マーケティング志向への転換は,社内に焦点を合わせる内向的な見方から,開放的,外向的な見方への転換を意味した.  大量生産時代に静まった企業を変革させる戦略行動むは環境の乱気流を大幅に促進した.こうして,1950年代までの産業発展は,企業家志向の時代,生産志向の時代,マーケティング志向の時代という逐次的な発展を遂げてきたのである.時代のこうした発展に伴い,経営者グループの関心も優先順位も,それに応じてある中心的な課題から他の課題へ転換した.  大量生産時代と大量マーケティング時代の経営者の不断の関心は,「企業の事業」に向けられていた.賃金が適正である限りは,経営者には,喜んで労働を提供する多くの労働者がいたので,感受性の強い消費者の要求を充足した.経営者が関税,国際通貨交換レート,インフレ率の差異,文化の差異,市場間の政治障壁などのような難解な問題に悩まされることはあっても,それはあくまでも二次的な問題に過ぎなかった.研究開発は.生産性の向上と製品改良に対する管理可能な用具だった.社会と政府は,独占化の傾向と競争抑制の共謀に対して,次第に警戒を強め始めたとはいえ,経済進歩の促進に対しては,依然として好意的なパートナーだったのである.  70年代には,企業の国際化,資源の不足,技術革新の加速化として,生産・流通問題は,ますます大規模になり,ますます複雑になっている.多国籍的な拡張,技術の飛躍的な発展と陳腐化,経済構造の変化などに対する企業家的な関心が,中核的な重要問題にたってる.政府と社会に対する...

組織と文化の概念

人類学者,社会学者,心理学者の蓄積された洞察を考慮して,組織文化の明確な,利用可能な定義を提示している.  Kroeber,A.と Parsons,T.との間で調印された,文化人類学と社会学の相互不可侵協定とでもいうべき宣言の中で,両者は,それぞれ文化を以下のように定義されている.文化とは,人間行動を形づくる上での要因たる,価値,観念,およびその他のシンボル的=意味的システム,ならびに行動を通して作り出された文物(artifacts)にかかわる,伝達され,創造された内容とパターンである.(Singer,M.,1968)  人間が生物学的限界を越え,また自然環境の制約を打ち破っていく存在だとすれば,文化のパターン化(culture patterning)は,人間的創造性を示す「創発」(emergent)事象なのかもしれない.(Singer)  有名なTylor,E.(1871)の古典的定義は,文化を,一つの「複合的全体」 (complex whole),すなわち,統合されたシステムとして捉えようとする点に特色がある.このアプローチは,文化を,構造-機能主義的に,あるいはシステム理論的立場から,文化体系(cultural system)として把握しようとする現代人類学にとって,まさしく基本的な指針を示すものであった.  このようなパターン理論からの「文化」の概念規定を代表するのは,Kroeber & Kluckhohu による以下の定義である.「文化は,行動に関する,また行動のための,はっきり述べられたり,暗黙裏に存在する,パターンから成る(注 1-3 ).それは,シンボルによって習得・伝達されるものであり,文物の形でのパターンの具体的表現を含む,諸人間集団に特有な業績を作り上げる.文化の不可欠な中核は,伝承されてきた(すなわち,歴史的起源をもち,歴史的に選択された)観念,ならびにそれに付された価値である.文化体系は,一方では,行為の所産とかんがえられるが,他方では,爾後の行為を条件づける要素だとも考えられる」(Kroeber,A. & Kluckhou,C.,1952).  社会人類学の中心概念は社会構造(social structure)である.それは,現存する対人関係(社会関係)の複合的ネットワークないしシステムを指すが,同時に持続性のある社会集...

経営戦略と組織文化

 過去五十年間に,経営手法の発達によって,組織に利用可能な予測,計画技能の水準は,著しく向上した.大半の企業は,一年間を対象とする予算から三年,五年ないしは十年間を考慮対象期間とする長期計画に移行した.すなわち,企業が必要と感じる期間に対象として計画を作成することができる,という一般的な前提があったのである.  第一次石油危機以来,さまざまな戦略的な不測の現象は,こうした楽観的な前提に深刻な打撃を与えた.あれほど技術的に卓越し,またそれがゆえに強固不変であると考えられてきた官僚制組織さえ,生存の危機瀕することが多くなる.  ある組織がもし長期にわたって存続・発展したいと望むならば,不連続的な環境変化に応じて,組織のもつ目的や価値に照し,望ましい方向へ誘導していったらどうであろうか,という考え方が生じてきたのも決して無理からぬことであろう.特に,根源的な変革の時代に入ったところでいるわれわれは,独特性,情報・知識で新たな創造,考え方の転換,長期視野と理念が問われるべきである.  経営戦略は,ビジョンを与え,革新の主導権をとるという意味では,組織の将来の栄枯盛衰にきわめて重要な役割を演ずるが,組織その自体だけではなく,経営者の運命をも決定づけるのである.ところで,この経営戦略の作成過程においても,さらにはその評価にも重要な役割を演ずるのは組織文化である.今までの考察の目的は,第一に,「組織文化」の概念を明らかにし,第二に,「経営戦略」と組織文化の問題がどのように基本的なところで相互に絡み合っているかを示すことがある. 組織文化の定義問題はが,まず組織における行動主体としての個人という側面に焦点がおかれていきたいと思う.個人における行動 (Behavior)は,以下のように解釈することができる.すなわち,(1) 行動は先天的ならびに後天的な形成された欲求の複合体によってひきおこさるものである.(2) それは環境に対する主体の側の無意識的な反応ではなく,行動主体がみずから設定した目標に志向しているものである.(3) 行動は,主体により認知されたいわゆる「状況」との間に一定の関連をもちながら遂行されていくものである.(稲葉 1979).ここにおいてとりわけ重要な点は,状況は単なる客観的な事実として存在するものではなく,それは行動主体によって認知され,その結果彼の行動になんらか...

パターン認識

人間にはすぐれたパターン認識(pattern recognition)の能力が備わっている.しかし脳というものを考える際には,自己組織化のモデルにはいくつかの興味深い例があるが,その情報処理の原理についてはまだ十分な理解に達しているとはいえない. コンピュータシミュレーションで自己組織が可能であることを示したのは, Von deer Salzburg(1973)である.また,認識細胞の自己組織による形成についても Will-Shaw & Von deer Salzburg(1976)のモデル, Atari & Takeuchi(1978), Takeuchi & Atari(1979), Atari(1980)の一連の仕事は,今日のニューラルモデルの数学解析の中で,神経場の興奮パターンのダイナミックスと自己組織のダイナミックスを融合した最も精緻なものと思われている. ただ,認知機能レベルでの学習がすべて情報処理的アプロチで説明できるかどうかは疑問である.大脳の中には,インデックス,シンボル,サインなど決まった信号というものはない.さまざまな状況に応じて意味をもたらす活動のパターンがあるだけである.(Israel Rosen Field,1988). レジ係りやドライバー,大工や教師,管理職,チェスの名手.どんな分野の専門家にしても,生まれつき円熟した技能が備わっていたわけではない.指導を受け,経験を積んで技能を獲得といっても,ある日突然,規則に頼る「何であるか」のレベルから経験に裏打ちされた「コツ」のレベルに一足飛びに成長するのではなさそうである. 自転車の例にとって考えてみよう.それは,データと法則をいくら集めても「コツ」は身につかないという事は何を意味するのか.こうしたコツは,からだの一部になりきっている時,ある時突然,コツに見放されてみてはじめて,いかにさまざまの行動がコツのおかげで可能になっていたかを思い知ることになる.「何であるか」の意識が「いかにして」のコツを押しのけるということである.ここで,人間は順応したい一心で判断をくだす,前意識的,反射的な行動を事実と推論で解釈できないところは共通していても,状況に深くかかわって類似性を認識した結果の産物と言える「直観」と混同してはならない. 技能を獲得するにつれて,状況把握...

環境、組織と戦略の「適合」

環境,組織と戦略の「適合」とはどのようなものかという問題は,経営学における新しい問題の1つであり,この問題に解答を与える十分なデータと理論が整備されているわけではない.しかし,先駆的研究を通じてこの問題に答える理論的な手掛かりはえられる.例えば,Mintzberg,H.(1973,1979)による環境適応パターンの類型化,Mlies,R.E.&Snow,C.C.(1978)の適応パターンの類型化 ,Deel,T.E.&Kenemy,A.A.(1982)による組織文化の分類,また,加護野 他 (1983)日米大企業の戦略や組織の定量的・定性的分析から抽出されたVHSBの4類型は,これまでの類型分析とも合致する. われわれは, (1) より一般性をもつ類型を求めている.(2) 微調整に重点をおいて環境変化への適応をはかるよりもむしろ組織の発展段階と関連した組織変動 (organization change),組織の計画的変化に重点がおかれる.(3) 組織が現状から望ましい状態へ移行していくプロセスの解明とそのための手法が重視されるべきだと考えられている. [表 13-1] はこの分類に基づいて,価値競合的組織文化と組織の有効性の可能な一致(congruence)を示し,環境状況と経営戦略との動態的関連性を具体化しようとする試みである(注13-1)..       表 13-1 経営戦略と組織有効性モデルの関連性 ┌───────┬──────┬──────┬──────┬──────┐ │外部環境の状況│高い不確実性│.低い不確実性│低い不確実性│高い不確実性 │.............................│ 高い緊迫状態│.高い緊迫状態│低い緊迫状態│低い緊迫状態 ├───────┼──────┼──────┼──────┼──────┤ │....文化類型..... │成長・適応的..│..理性主導的 │..階層制約的 │..コンセンサス │................   │...........文化. │............文化 │............文化 │.....的文化   ├───────┼──────┼──────┼──────┼──────┤ │....組織形態.... │臨時的組合せ│..一般企業   │........

認知・行動モデルについて

イメージ
人間は口伝えによるコミュニケーションを始め,知り得た領域,開発する領域,支配する領域を拡大して,効用性を常に高めていくノウハウと技術など,永続性ある知識が貯えられていく.メッセージには,言葉,行動の基準,規範(外部の基準)を媒介=インターフェ-スとして交換される集団記憶は欠かすことができない.  集団記憶はあらゆるコミュニケーションのシステムの先立つ,いわば川上の記憶で,行動の基準となる最少の集団記憶と言える.情報処理でこれに相当するのは,すべてのプログラム,つまり一定の言語で書かれるすべてのメッセージの川上にあるコンパイラー (compiler,プログラミング言語で書いたプログラムを機械が読み取れる機械語に翻するプログラム)である.この機械化された情報処理から現れ出る基準は,明らかに,既知のデータや命令の形式化に欠かせない道具,つまり最少の記憶の発生の創造的部分である.いろいろな基準について,すでに述べている,図 12-0 は,各基準両立しうる範囲や構成要素(核)を提示している.普遍的基準あるいは標準化は,組織にとってきわめて重要な存在であると思われる. 人間の認知・行動について論じてきたが,いまこれを要約的に図示すれば,次のように展開されることができる(図 12-1), ところで 図12-1 については,以下の注釈を行っておきたい. 1 PS(process system) は,探索による知的情報処理システムの中核的存在で,ルール記憶部,データベース,およびインタプリタ(ルール記憶部に蓄えられたルールとデータベースの string のマッチングを行い,それが成功すると,その実行部を実施する)の三つから構成されている(図 12-2). PS のルール適用プロセスから分類すると,前提部(LHS)駆動型と結果部(RHS)駆動型の二種類になる.人間の認知・行動パターンの特徴からモデル化と予測する方法、両方とも可能なことを意味される. 2 人間の活動についての仮定は,人間の本質,人間関係,現実・空間・時間・環境の本質に対する仮定と深く結びついて,それは第一に,特定の文化的背景の下で高度に組織化された認知様式,第二に,このような認知様式が知識へのルートをつくる.第三に,文化的に異なった情報処理の形態を扱うことによって,文化について語ることは,認知レベルで語るという広く認めら...

行動プロセスにおける外的影響

Homans(1950)は,いかなる社会的システムも3種の環境,すなわち物理的環境(地域,気候など),文化的環境(規範,価値観,その社会の目標)および技術的環境(仕事を遂行する上でそのシステムが活用できる知識と手段の状態)の中に存在する.  環境はそのシステムの中にいる人々にある種の活動と相互作用をさせる.これらの活動と相互作用は,それらの人々相互間および人々と環境との間にある種の感情と感情をひきおこさせる.これら環境によって決定された活動,相互作用,情感の結合を- 外的システムと名づける.  人間の活動のうちで,生物学的種としての人間が,生まれながらに持っている欲求や動機によって決定されっているのは,ほんの一部にすぎないということである.それよりもはるかに大きな決定要因は私たちが学習した動機や反応の仕方であるが,これらはいずれも,われわれの文化,家庭状況,社会経済の背景- 環境や,ある時点における「いま,ここで」の - 状況,を反映している.つまり,われわれの動機や欲求は,自分がおかれている状況をどうみるかによって大部分が決まり,その見方自身,大部分がそれまでに行われた学習によってきまるのである.  学習は心理学者によって,刺激にたいする反応におけるかなり永続的な変化として,定義されている (English and English,1958;Hilgard, 1956:3;Wickens and Wayer,1955:28). 大部分の学習理論の中核は,刺激- 反応の関係である(表 3-1).刺激は解釈され,個人のなかに反応を作りあげる.後続する刺激によってこの反応を連続的に強化することは,個人の行動に多かれ少ながれ永続的な変化を生み出す.これが学習である. 組織文化の学習  組織文化は「学習された解」をその主要な要素として定義される.この学習には「積極的問題解決状態」(positive problem-solving situation)と「不安除去状況」(anxiety-avoidance situation)という2つの異なるタイプがある.積極的問題解決状況では,ある問題解決に有効な解が,同様の問題に対して繰り返し適用される.ここでいう解には,特定の行為,問題の認識の仕方や考え方,信念や感じ方,あるいは状況のある側面についての仮定などが含まれ,それらは問題解...

人間の行動における満足基準

L.W.Porter と E.E.LawlerⅢ(1968) は,報酬に対して個人がもつ主観的な価値尺度と職務遂行によって得られると思われる個人的報酬についての期待との積によって,人々の努力が決まると仮定する.すなわち各人は,得られるであろう報酬に高い価値をみとめるほど,また努力すれば当報酬を得られる期待が大きいほど,より大きな努力を行なうとみなすのである.もっとも努力とそれに基づく成果とは,必ずしも一致しない.それは,個人の十分な能力と資質があるか,正しく自分の役割認知をしているかによっても左右される.この成果に応じて,報酬についての期待が影響を受ける.他方,そういった成果に対応して報酬が得られるが,それは内面的報酬=友情・他人にみとめられること,尊敬,自己実現等と,外面的報酬=賃金などF.Herzbergの衛生要因 (hygiene factor),人間の不満とりわけ職務に関連した不満を引き起こす要因に相当するものとから成り立っている.そしてHerzberg と同様,当該個人の満足に対しては外面的報酬よりも内面的報酬の方が重要と考える.それらは基本的には,労働者の行動は,彼が所与の結果(例えば,お金,責任,達成)にどの程度の価値をおいているかということと,熱心に働くとか仕事の質を改善するなどの行動のうち,どのような行動がその結果をもたらすと期待しているかの関数である,とする.(Vroom,1964,House,1971)  人間行動についての経験的研究結果を説明するために Homans(1961) は Skinner (1938)がオペラント (operant)と呼び,彼が「成功命題」(success proposition)を次のように述べている.  「人の行なうすべての行為に言えることだが,ある人のある特定の行為が報酬を受けることが多ければ多いほど,それだけその人はその行為を行なうことが多くなるであろう.」  成功命題が語っていることは次の事である.ある人がある行為をする理由がどうであれ,いったん現実にその行為が行なわれ,その行為が成功すると-その結果がその人にとって,正の価値(positive value)を持つなら- その時,その人はその行為を反復しがちである.知識ある観察者から見て,その成功がその行為によるのではなく,むしろ偶然のことであっても成功命題...

文化を超える

文化が心の組織を左右し,それが今度は,人間の物事の見方,政治的振る舞い, 決定の下し方,優先順位の決め方,生活の整理の仕方,そして「考え方」を大き く左右している.自己を認識することと,文化を認識することは,表裏一体であ る........われわれは今や「文化を超える」という困難な旅へと乗り出さなくて はならない. なぜなら,無意識の文化の束縛から,人間が徐々に自己を開放するこ とこそ,分離のなせる最大の偉業といえるからである. E.T.Hall(1977) 

人間の認知・行動モデル

 人間の知能(intelligence)とは経験から学ぶ能力や知識を獲得する能力である,さらに新しい事態が発生したとき迅速かつ適切に対応する能力も知能であり,問題を見極めてこれを解決するために推論を用いるのである.  しかし,新しい事態が発生したときに,これを迅速かつ適切に対応する能力がないだけでなく,新しい事態が発生したのを知ることもできない.したがって,このような新しい事態を問題であると認識することもできない.まして,その問題解決に推論を用いることなどできるはずがない.  われわれは,環境の変化に適応して生きていくために,日々発生した問題を認識,理解して,それによって得られる経験や知識を学習し記憶することによって,日々成長する.このために,新しい事態が発生したときに,蓄積,記憶している過去の経験・知識をもとにして推論して,問題を解決することができる.  1976年,Allen Newell と Herbert Simon は,「これまでに人工知能あるいは計算機科学がはたしてきた最も重要な貢献は,われわれの心についての科学的理解を構築,記述する際に物理記号系という概念を導入したことである」といている. 哲学者A.N.Whitehead(1927,pp.7-8)「人間の心は,ある経験による要素が意識,信念,情動といったものを呼び起こし,その呼び起こされたものが経験の他の要素を反映しているときに,記号的に(symbolically)機能している.前者の要素は記号(symbols)と呼ばれ,後者は記号の意味(meaning)を構成している.」  人間はモデルを使い仮定やシミュレーションを行って,まだ起きていない事象についての事前の情報を得る.だが,モデルがほぼ原型どおりに機能するか変化するかでなければ,よしとされないだろう.これは実際に存在する前,あるいは実際にそうなる前にこうであろう,こうするだろうと人が理解するのに必要な条件である.そこで,人間はモデルを知識や行動の案内役にするために,手工業期,それに次いで工業時代(または合理性の時代)を経て現在のようにモデルを豊富にしてきたのである.さまざまな機能と伝達手段を連結した情報処理システムでは,コンピュータがモデル構築の望ましい工房と思われる.  すべての人は,自分自身の経験に基づいてものごとをりかいする.われわれが世の...

戦略決定

組織における広義の意思決定過程には,課題の明確化(決定の必要性その他の背景の理解,方向づけ),案(選択肢)の探索また創出,案の比較評価または修正,決定に必要な合意の調達,所定の決定手続の履行が含まれる. 狭義の決定過程すなわち上記のうち最後の過程(決定の手続ないし方式)にはさまざまなものがある. Davis,J.H.(1973) は,所与の選択肢に対する成員個々人の選好が,集団の決定にどのように変換されていくかを研究する一つの用具として社会的決定方式の理論(Social decision scheme theory)を提唱し,多数決,相対多数決,比例モデル,等確率モデル,ロージ=ソロモン・モデル(正しい意見が説得力をもつことを前提としたモデル)などほか,陪審員会議に最もよく適合する特殊なモデルなどについて検討している. 成功の確率は低いが成功すっれば大きな利得がえられる(と同時に,大きな損失を招く失敗の確率が高い)選択肢から成功の確率は高いが成功時の利得が小さい選択肢まで複数の選択肢があって,その中から一つを選ぶ決定は,リスクを含む決定とよばれるが,1960年代の初めにリスクを含む決定と極化 (polarization)現象という実験結果が報告され,いわゆる「冒険的移行」(risky shift)現象として注目された.(Pruitt,D.G.,1971) 組織はオープン・システムとして,資源の希少性およびさまざまの不確実性が存する状況下にあって,環境とのさまざまな相互作用ないしさまざまな関係をとり結び,自らの存続を維持していくことになる.そのような意味で,組織の環境適応や組織の環境操作は,組織の存続をはかるうえで無視することのできない過程だということができよう.また,各主体間でどのような政治的かけひきが行われるのか,その具体的な戦略は何かといった,いわゆるバーゲニングに関する問題などがある.それは,「戦略決定が合理的に上位目標(いっそう包括的目標)を達成するための計画ではなく,自らの個人的目標を達成しようとする個人間のバーゲニングの結果としてとらえること」である.(Allison,G.T.,1971)  こうして,文化,政治的構造,戦略との関係において政治策略は文化を創造し,文化は特定の政治行動のタイプを正当化するのに役立つ,文化と政治との関係が政治的側面を...

変革を実行していくためのガイドライン

変革プロセスはきわめて不確実であり,今まで見えなかったものが見えてくるプロセスだから,試行差誤を繰り返しながら個別の状況に合わせて最善の方法を見つけ出すことが必要となる.  ここでは,順次ガイドラインを示していく. 1 リーダーシップを発揮する  上級管理職のリーダーシップは,セルフデザインを行っていく間,きわめて重要な役割を果たす.彼らは組織を革新させていくことに対し権限を与えたり,より競争戦略を打ち出す企業に変身を遂げるために,重要な要素となるチーム活動を積極的にサポートする.手始めに自分たちのチーム活動を調査し改善を行う.一般社員が広く受けている教育にも関心を示す.経営者は教育の場面に定期的に顔を出し,参加者への期待を述べたり,質問に答えたりなど,実行部隊であるメンバーをしっかりとサポートしていかなければならない. 2 支援者を増やす  非常に大きな変化の場合には,種々の活動を調整するプロジェクトリーダーを特別に任命することもある.このリーダーは効果的に管理していくためにかなりの社会的,政治的そして統合的なスキルを兼ね備えていなければならない.変革活動そのものを生み出すエネルギーと,それに対する支援についての関心を持続させることが必要とされる.この関心は,組織を活性化させていくための努力を理解し,支援してくれる人が十分に存在する場合に生まれてくるものである.彼らは意思決定に影響を与えたり,目的を達成することを手助けしたりするようなやり方をとっていく.したがって,こういったチームの編成は戦略的に行わなければならない. 3 変革プロセスの管理  変革プロセスにおいてる,メンバーが十分な活動ができるようになるまで行動を評価し,その後の行動に影響を与えるようにしなけれはばならない.さらに,望ましい組織に対するメンバーのビジョンは,メンバーがそれについて学んだり,また,これまでイメージされることのなかった可能性に思いめぐらしながら,長時間にわたりより好ましい変化し,発展していかなければならない. 4 推進活動と学ぶことを一体化する  メンバーは推進活動の進ちょく状況や活動内容に関するデータを収集するために,独自の方法を編み出さなければならない.つまり,全社的にレベルアップを図っていくためには,すべての組織単位が同じ方法で学んでいくということを考えれば,かなり重要なこと...

計画的変革の理論

計画的変革がどのようにして起きるかを理解する上では, Lewin(1952)および Lippitt とその共同研究者 (Lippitt, Watson & Westley,1958)によって最初に提唱されたモデルから出発するのが最も有益である. Schein はこのモデルをさらにみがき上げ,捕虜の強制的説得から教育場面に起きる現象にいたるさまざまな現象の理解に活用した (Schein,Schneier & Barker,1961;Schein,1961;Schein & Bennis,1965;Schein,1972).このモデルの根底には以下の考え方がある. 1 いかなる変化の過程にも,何か新しいことを学ぶことのみならず,既に存在し,しかもおそらくそのパーソナリティや個人間の社会的関係とよく一体化している何かをやめることが含まれている. 2 本人に変わろうというモチベーションがなければいかなる変化も起きない.もしそうしたモチベーションがないとすれば,そのモチベーションを起こさせることがその変化の過程においては最大の難事である. 3組織構造,過程,誘因制度-incentive system (Rewards,Career Development etc.) の変更などの組織変革は,その組織の重要なメンバーにおける変化を通してのみ起きる.したがって,組織の変革は常に個人の変化によって仲介される. 4 たいていの成人の変化には態度,価値観,自己像の変化が含まれている.そしてこうしたものをかえることは,本人にとってはもともと本質的に苦痛でもあり脅威でもある.  5 変化は複合段階的なサイクルである.安定した変化が起きるためには,すべての段階がともかく切り抜けられなければならない.  個人の態度変容と組織のプロセスとは同じではない.後者には,リーダーの役割とか,一つのグループから他のグループへの伝染などといった側面があるからである.しかし両者には類似性も多い.まず個人の態度変容プロセスから考えてみよう.   段階1:解凍 (unfreeze) - 変化へのモチベーションを創ること [メカニズム1]  それは,個人の世界観が妥当ではないことを発見するか,あるいは期待した結果を生まないばかりか,望ましくない結果さえ生むということを発見するのである,介入過...

政治文化と組織化のプロセス

以上のような分析は,Almond,G.A.,& Verba,S.(1963)の「政治システム」モデルを借用するのが便利である.  政治システムは「社会における正当で強制的な秩序維持,または秩序変容的システム」(Almond,G.A.& Coleman,J.S.,1960)であり,「権威的な決定策成システム」(Easton,D.,1953)である. この体系の能力を「権力」と呼んでもよいが,権力をそう定義することは,権力の零和観念を拒否することを含んでいる.つまり,権力は分割配分されるべき固定量のものではなく,その入力要素の量と質に,また入力を出力に変換させるメカニズムの性能に依存して,拡大したり縮小したりするような政治システムの能力を意味する.しかもこの能力の拡大は,単に量的増大を意味するにとどまらず,Alomnd が,資源抽出能力,関係規制能力,配分能力,象徴操作能力,応答能力 (responsiveness)と識別したような質的に異なった新しい能力が付加して発展することを意味する. 政治過程や政治行動にたいする政治文化の影響を明らかにするためには,政治システムへの入力要素(支持・批判・要求)の質の側面を手がかりにするのがよい.これが現実において多次元的な分裂(対立)構図をなしている混合パターンであることが,政治の変動予測に貢献する. 多数の人間が共存して政治体を構成している限り,社会に利害の対抗,亀裂が存在するのは状態であり,この亀裂が紛争として顕在化し,処理を要求することになるのも必然である.この意味で,社会は常に何らかの形で分裂から合意(consensus)を生みだし,社会のエントロピー低減を図る方策をもたなければならない.エントロピー低減策のありうべき代替案(alternative)のうち,価値および利害の差異と対立を顕在化させ,その前提の上に「合意」を生みだす戦略が「多数決原理」であり,それらをむしろ潜在化させ,「合意」の状況(あるいは雰囲気)の中へ差異と対立を融解させる戦略が「全員一致原則」である. 組織を進行するプロセス(環境変化,目的変更と協働過程の適応)の問題の重要性を最初に指摘したのはBarnardである.その後, Weick,K.E.(1969) は組織を現象学的立場から観察し,プロセスとしての組織観に理論的基礎を与えた.  ...

秩序の変容と制度の限界

 前にも述べたように,制度による対応は主体の側に強固な思考パターンないしは一定のものの見方を形成しめることになる.そのパターンからはずれた問題は,たとえその組織にとって,クリティカル(critical)であったとしても,状況イメージの外におかれるか,またはたとえ認知されたにしても,現在のパターンで理解可能なかたちに変形され矮小化されてしまうことになる.これは官僚制の逆機能分析の示すところでもある.(March & Simon,1958) また,現状の制度によって十分認知可能であったとしても,意図的に無視されるケースもある.それは,制度化によって利害状況が確実し,それぞれの主体に既得権が生じていることから起こるケースである.すなわち,各主体はその問題が取り上げるに値すると認めた場合でも,その問題が自らの既得権を脅かす可能性がある場合,または自らの利害には直接関係なくともその問題を取り上げることによって対抗的な他の主体の利益に結びつくと予想される場合は,意識的に無視されることになる.したがってそこでは,情報の意図的な遮断・歪曲などが行われることになる.  さて,既存の制度に基づく対応が困難と認められた場合は,制度によらない非公式ネットワークを背景にした権力関係によって,そうした状況に対応していかなければならない.したがって,その制度の解釈はインフォーマルな組織を前提とした具体的な人脈や人間関係に依存することになる.こうした非制度的な関係は「そこに埋没している個人にしだいに共通の態度や慣習をつくりあげると同時に,逆にそれらがやがて各人に対して大きな規制力となって働いていく」ことになる.(稲葉,1979:158) しかし,制度を通じることなく状況に対処できる主体の能力が問題となる場合は,既存の制度そのものの不信を招き,組織全体は一挙に状況化する事になる.とくに,そうした新しい動きによって,現体制の既得権益がはげしく脅かされたりまた脅かされる可能性のあるときは,新旧の間でヘゲモニーを握った主体は,自らの権力を保持・強化するために,自らを頂点にした権力構造の維持・強化をはかっていこうとする.これは,自らが目標達成の手段にしかすぎなかった権力が,目的そのものへと転化していくプロセスでもある. S.N.Eisenstadt は個人的自律性と社会秩序を調停するという問題が...

価値システム

どんな文化にも,価値,規範,期待,慣習の複合体がある.そしてそれぞれの価値から,数多くの規範,期待,慣習が生まれている.こうした複合体をここでは「価値システム」と呼ぶことにしょう.  文化人類学者と心理学者は価値(value) を,宗教的要因と情動的要因とに基づいて分類している.文化人類学者 Shibutani,T(1961) は価値を肯定的価値と否定的価値とに分けた.また,心理学者Rokeach,M.(1973) は価値を,末端的価値と道具的価値とに分けた.ここでは価値が文化に対して持つ重要性の度合に応じて,一義的価値,二義的価値,三義的価値に分類することにしよう.ただし,こうしたそれぞれの価値は肯定的であることも否定的であることもある.さて, Shibutani は価値を次のように定義している.「価値づけは行動主義的観点からみると,一種の性向である.すなわち,人が望んでいること,避けたく思っていること,破壊しようとしていることなのである.人がある対象物に特別の興味をもっているとき,その対象物には価値があるといえる」. Rokeach もまた,いくらかこれと類似した定義を価値についておこなっている.「私は価値とは信念の一種であり,人の全信念システムの中心に位置しているものであって,人がいかにふるまうべきか,また,ふるまうべきでないかに関するもの,あるいは,人が達成するに値する,あるいは値しない目標状態に関するものであると考える」.  このようにして,価値は人が自分自身の行為や他人の行為を判断する基準となっている.つまり,個人が自分と,(1)自分自身,(2)相互作用を行う他の人々,(3)日常に必要とするものを作り出す機具,(4)まわりの自然,そして,(5)救済を達成するのを助けるとかんがえられている絆,との関係を決定する基準となる. (K.S.Sitaram & R.T.Cogdell,1976)  行動の最も強烈な動機決定因のあするものは状況的であり,また役割関連的であることをすでに指摘された (Schein,1980).つまり,人間性を生物的起源を一般化使用とする仮定は誤りのである.実際のところ,文化的価値は社会における平穏な暮らしをかき乱すような人間性を抑圧することもある.  価値は必ずしも両端にあるわけではない.まず,ある文化で肯定の端にある価値が,...

価値の交換と制度化

現代社会においていかなる価値が重要であるのかとめぐる問題には,Parsons によれば,業績(achievement)と普遍主義(universalism)の価値こそ,最も進んだ価値をなしている.かれが制度化された個人主義(institutionalized individualism)や手段的活動主義(instrumental activism)を重視している.秩序はいかにして可能なりやがの解決をめざして,かれは,社会の価値が行為者のパーソナリティに内面化されると同時に,その行為状況に制度化されることが必要であることを強調した.  行為者は,かれのパーソナリティのなかに内面化された社会的価値にもとづいて欲求充足の仕方を学習する.すなわち,自らの欲求充足につながる目標が何であり,いかなる手段がふさわしいかを教えこまれるのである.そこで,社会の価値を受け入れることによってのいみ,行為主体はその状況に能動的に働きかけることができるのであるが,とするならば,行為者にとって最も能動的な働きかけを可能とする価値は一体何であるのがに関する洞察が必要とされるだろう.  実は,制度化された行為自体が,きわめてダイナミックな過程を伴っている.制度化された行為を行なうことによって,それぞれの行為主体が自らの欲求を完全に充足することは稀有であるばかりか,欲求充足の不平等がつねにみられるからである.にもかかわらず,制度化された価値が依然として通用しているとすれるば,その事態は勢力差あるいは権力関係によって説明されることになろう.かかる価値が強制されればされるほど欲求阻害が潜在的に蓄積され,価値それ自体の革新のためのエネルギーが増大する.ここに価値革新の鍵がひそんでいる.  Parsons以後,このテーマの解決に向けて Luhmann,N.(1984)は,システム自体の然るべき特徴を確認して,それとかかわる環境の差異性を明確化し,自らを同定することを,システムの自己準拠(selbstreferenz)と名づけている.システムはそうした自己準拠の能力によって錯綜した世界から分出しうることになる.  ところでこうしたシステムの自己準拠は,システムによって産出されると同時にシステムを組成している要素それ自体の自己準拠と深くかかわっている.このことがらLuhmann は,80年代になると自己産出(A...

制度化

組織や制度は,さまざまな個人または集団の目標を実現するために,他の人たちまた集団との交換の過程を引き受ける異なった人々および集団の間の多様な反応と相互作用を通じて形成されるのである.  こういう交換に従事する個人または集団は,でたらめに分布しているのではない.こういう交換は,構造的に異なった位置の人たちの間でとり行われる.これらの位置自体は,「制度的交換」の過程の結果である.また,この過程の中での個人の創造性と相互作用の分析と,制度形成の象徴的=規範的,体系的,権力的側面の分析との結合の重要性を強調している.  制度化の過程は,制度が,実効性のある制度として自立し,権力行使の源泉として,また,正当性を付与するためのイデオロギーに転化していく過程でもある.それは各個人のアイデンティティは,自らの経験・状況・制度に対する一貫しかつ安定したイメージに支えられている.そして,それが組織全体の統一的な認知構造を提供するという意味で,組織の安定化に貢献する.  しかし一方で,制度化は組織全体の認知構造を歪んだものとしてしまい,組織の客観的状況の正確な判断を困難にする危険がある.そればかりか自らの存続をはかるために,意図的に自らにとって好都合な不確実性を創出を行い,組織のおかれている現実(reality)そのものを,自らの手で人為的に形成することになる(J.Pfeffer & G.R.Salanick,1978). 以上,組織変動のダイナミックな側面をみてきたわけであるが,現存する制度はそれぞれの利害状況,既得権益の構造体を現したものであり,新しい戦略展開が,そうした既得権のネットワークに抵触するかないしは変更を迫る場合,状況は一挙に政治問題化する.  Riesman,D.(1961)は,状況的強制力の存在を拒否権行使集団への権力の拡散による各単位間の反応の類似性に求めた.それは集団成員の大部分の人々が共有している心理的特性であるが,さまざまの社会諸集団に共通の経験からうまれた制度や伝統,規範が個人を拘束したり心理的に負担をかけるのを,個人が自己のもつ欲求性向と矛盾しない形で解決するメカニズムであり,したがって,文化的規制が心理的次元に表出されたものなのである.いいかえるなら,Fromm.E.(1941)がいう社会心理学的要因は文化的規制に影響された性格をもつのである.こ...

Science of Exchange

資源処理に関する構造とは第一に,この意味においての人的要素と物的要素との相互作用を含意している.第二に,複数の人的構成要素間の相互作用が含まれる. このような相互作用に注目する時,後に述べる資源 (resources)の基本的特徴が理解しなければならない. 資源の共通的本義は「組織間,諸種の取引行為を行う際,相互間交換の内容」(Hall,R.H.,1982). 広義の資源は「あらゆる価値のある活動, サービスまたは用品」(Cook,K.S.,1977). しかし,第一説は意味がやや狭いのである.なぜなら,資源はその価値の顕在は必ずしも取引によらない.しかも,現実には取引できない「価値のある資源」も存在している.それはカネで量れるものではないし,その上,資源の保有者も取引手段だけを用いて流通を促進するわけでもないのである.第二説は,意 味もまた広すぎるのである.ゆえに,折衷説は資源を「あらゆる価値のある具体的なものまたは無形的な思惟,それは組織間で相互交換(1)できる.不足を補う,需要をみたす,そして個別組織の使命を成し遂げれば,それは資源と呼ぶことにする.」(Saidel,J.R.,1991). したがって,資源とは:あらゆる価値のあるもの,主体組織間で交換できる,それは各主体組織に役立,しかも,その価値は取引ではなく,交換過程で もっとも顕現できるのである. 一般的に,資源配分の主な問題は次である 1 資源は組織間で有効な運営の前提である.そこで,資源の量よりも潜在資源の開発及び有限資源の充分かつ有効な運用は重要なカギとなる. 2 資源管理戦略の策定,新しい方策の試み,確実の実行などは,資源稀少性に対して組織の挑戦的な課題であるとともに,成果や問題解決の処方でもある. 3 資源稀少性は相対的な問題である.稀少の程度は時間や空間の変化に影響され,また,組織の資源管理の度合,資源獲得の方式,外部需要の制御力,および資源の弾力性(代替程度)によって見出すことができる. 4 資源不足は組織の運営問題の充分要因ではないが,無視できない根源のひとつである.このように,組織が孤立状態で運用できる「人,もの,カネ,情報」のような経営資源は組織を支える基盤といえよう. 5 時間・空間の変化は構造上の各構成単位に衝撃を与え,変化を引き起こせるから,動態的パースベクティブか...

価値の交換理論

Homans,Blau,Stolte & Emersonを代表とする交換理論 (Exchange Theory)は,人々の相互作用が,報酬の交換過程であると考え,人々は他者への報酬にはらう犠牲を少なくし,受け取る報酬をできるだけ大きくするように行動し,関係から得る報酬が有利であれば関係を持続し,不利であれば関係を改善あるいは停止するとする視点から,結合と分離の微視的な相互作用の動的過程に光をあてたが,さらにこのような交換過程が人々の組織化を促し,集団間の連結と競争,対立と支配をもたらすとして,社会構造の巨視的過程にも交換の視点を拡大させた. Blumer は,人々の間の相互作用が,人間の事物にたいして与えた意味にもとづいて行われ,このような事物の意味は,事物そのものにそなわっているのではなく,人々の間の相互作用から生じ,事物の処理において解釈されると考える.  ところで,相互作用がおたがいの心像にもとづいて行われるとすれば,ここに問題となるのは行為者の他者に与える印象の管理である.この点に注目したのがGoffman(1959) である.  すでに Simmel (1900,1908) は人々の相互作用が,相手についての相互の心像にもとづいて発展するとともに,相互の心像がまた現実の相互作用と関係にもとづいて発展し,この相互の心像が,それぞれの側の誠実と隠蔽,誇張と虚偽,歪曲と誤解とによって,知と無知,真実と誤謬とからなることを示すとともに,それがまた価値の交換過程でもある.こうして相互作用は,主体間の象徴を媒介とする心的な相互の演出と解釈のもとで行われる価値交換の動的過程である. どんな文化にも,価値,規範,期待,慣習の複合体がある.そしてそれぞれの価値から,数多くの規範,期待,慣習が生まれている.こうした複合体をここでは「価値システム」と呼ぶことにしょう. Shibutani は価値を次のように定義している.「価値づけは行動主義的観点からみると,一種の性向である.すなわち,人が望んでいること,避けたく思っていること,破壊しようとしていることなのである.人がある対象物に特別の興味をもっているとき,その対象物には価値があるといえる」. Rokeach もまた,いくらかこれと類似した定義を価値についておこなっている.「私は価値とは信念の一種であり,人の全信念...

組織の情報処理スタイル

組織は情報交換の環境の中で,相互作用によって,価値観,事実,概念,感情などに関するメッセージが交換される.このような情報交換の過程によって組織メンバーの間に共通的認知が形成される.これらの共通的認知は,時には蔽い隠している.例えば,組織文化の底流にある仮定.時には,明らかにする.例えば文化の人工物的レベル. これらの共通的認知のほとんどは組織目標,業績指標,権力配分,戦略志向,リーダーシップ・スタイル,成員の順応,成員の評価および成員の行為的誘因などの特徴から予見できるのである.  実際に,図 13-1 と 図 13-2 からさらに4つの組織文化の類型,すなわち,4つの組織的情報交換体系- 理性的情報処理スタイルから理性主導的文化 (rational culture),発展的情報処理スタイルから成長・適応的文化 (development culture),コンセンサス的情報処理スタイルからコンセンサス的文化 (consensus culture),階層的情報処理スタイルから階層的文化 (hierarchical culture) に発展させることができる. われわれは組織の状況を分析するための2つの次元,すなわち,安定対不安定,緩和さ対緊迫さをさらに加えて,4つの情報処理的類型に分類している.この枠組みによって,われわれは,4つの文化類型と組織の有効性モデルに発展させることができた. 経営戦略と組織有効性モデルの関連性 ┌───────┬──────┬──────┬──────┬──────┐ │外部環境の状況│高い不確実性│低い不確実性│低い不確実性│高い不確実性│ │ │高い緊迫状態│高い緊迫状態│低い緊迫状態│低い緊迫状態│ ├───────┼──────┼──────┼──────┼──────┤ │文化類型 │成長・適応的│理性主導的 │階層制約的 │コンセンサス│ │ │文化 │文化 │文化 │的文化 │ ├───────┼──────┼──────┼──────┼──────┤ │組織形態 │臨時的組合せ│一般企業 ...

人間の情報処理スタイル

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われわれは,人間の情報処理様式を,以下の4つに要約することができる. 1合理的情報処理スタイル (The rational information processing style)この基本型は図13-1の第IV象限に属する.その人は道具的・機能的傾向があり,短期兆候と高い確実性に向いている. 2発展的情報処理スタイル (The development information processing style)この基本型は図13-1の第I象限に属する.その人は成長的・冒険的指向があり,短期的兆候と低い確実性に向いている. 3集団的情報処理スタイル (The consensual or group information processing style) この基本型は図13-1の第II象限に属する.その人は帰属感と調和を求める傾向があり,長期兆候と低い確実性に向いている. 4階層的情報処理スタイル (The hierarchical information processing style)この基本型は図13-1の第III象限に属する.その人は安全感と安定的指向があり,長期的兆候と高い確実性に向いている.(Quinn & McGrath,1985:319-320)  このように,人間はそれぞれ違う情報処理上の好みや傾向を持ちながら,それに基づいて認知を織り出されるのである. 情報処理的状況と戦略     意思決定者には,実際の状況が,ありうる状況のうちのどれであるかが確実にはわからないというわけである.分析をしている時点で,現実を知るプロセスをモデル化するために,「事前確率」と呼ばれる概念が導入される.普通はこの先験確率をベイズの定理(Bayer’s Theorem)と呼ばれる公式に従って修正する(現確率を測定し,それをあらかじめわかっている確率と比較して,その値がいちばん近いものを答えとして出力す る),しかし,このような純粋な統計的手法だけで問題を解くことには限界がある.人間を情報処理装置の一種とみなすコンピュータ・モデルの限界を見抜くことは,パターンの意味を理解して,パターンが何であるかを理解している人間の認知的情報処理の把握が常道である.