文化パラダイムの基準とディメンション
科学史家Thomas Kuhn(1970)によれば,新しいパラダイムは,これまで支配的だったものの見方,考え方が革命的・非連続的に変異することによって,初めて形式されるという.
同じ客観的環境を異なる仕方で理解する集団が複数ある場合,その差異は,まさに「組織文化」こそが意味決定の拠所として利用される知識であり,組織化のプロセスを人々の認知的レベルから規定する要因であるとともに,またそれ自体が組織化の産物であるという認識にもとづいている.
すでに言及されているように,「組織文化」は「ある集団が,外部適応と内部統合に関する諸問題の解決を学習する際に,発明・発見・開発してきた基礎的仮定のパターンであり,良く機能するがゆえに現在でも有効だと考えられており,したがって新しいメンバーにもそうした問題に接したときの正しい認識の仕方,思考方法,正しい感じ方として教え込まれるものである」(E.H.Schein,1985:9) Schein によれば「組織文化」は,その本質である基礎的仮定のパターン (a pattern of basic assumptions)を中心に,図 2-1 に示すような3つのレベルで分析できるという. 図 2-1 組織文化のレベルと相互関係
Adapted from Schein, op.ct.,p.14.
第1のレベルは研究者や組織メンバーが,直接に観察・経験できる「作られた現象」(artifact)レベルの組織文化である.たとえば組織メンバーの行動パターンや,組織内で使用される特異的(idiosyucratic)言語・コード・シンボル,物理的空間配置,関係的なネットワーク,組織における人口統計上の変動などが含まれる.このレベルの文化はさまざまなバリェーションと複雑性をもっているため,組織メンバーの行動パターンがどのようであるかを知ることはできても,いったいなぜそのように振る舞うのかを知ることは,必ずしも容易ではない.
組織メンバーがある仕方で行動するその理由を解明するには,第2のレベルの組織文化,すなわち人々の行動を支配する「価値」(value)を解明しなければならない.あらゆる文化現象は,価値を裏付ける物語が存在する場合や,価値の背後に存在する仮定が明確化されているときにはじめて,実際にとられた行動の一連の合理的解釈ができる.つまり,誰かによって作られた価値は「いかにあるべきか」(should)についての信念や知識を反映しているからである.これらの諸価値には,その妥当性が上位目標や現実の結果によって判定できる客観的なものと,メンバー間の社会的コンセンサスによってのみ判定できる社会的なものとがある.しかし,人が,価値をおき,実行しようとすることの底流にある仮定のパターンが人々の行為を規定する真の要因を解明するには,さらに掘り下げた分析が必要である.
組織文化を真に理解し,観察される諸行為や 「作られた現象」 を完全に解明するには,当該組織メンバーにほとんど「前意識的」(preconscions)なレベルで「当然のこと」として考えられていて,彼らの知覚や思考,感じ方を根源的に規定している基礎的仮定のパターンを明らかにする必要がある.
Schein の研究成果に従って,エッセンシャルな意味の「組織文化」,すなわち基礎的仮定のパターン(a pattern of basic assumptions)には,
(1) 環境との関係についての認知パターン
(2) 真実・現実 についての認知パターン
(3) 人間の本性についての認知パターン
(4) 人間の行動についての認知パターン
(5) 人間関係についての認知パターン,が含まれる これらの基礎的仮定のパターン(認知/思考パターン)のうち,(1) と (2) は組織文化における環境創出過程に,また (3),(4),(5) は連結行動のあり方に,それぞれより密接に関わっていることがわかる.このことはこれらの基礎的諸仮定が,多義的情報から意味を抽出するための方法論となっていることを意味している.
(表 2-1)
表 2-1 基礎的諸仮定(認知パターン)
____________________________________________________________________________
1環境との関係についての認知パターン:組織レベルで中核的メンバーが合意して
いる組織と環境との関係についての考え方.たとえばその組織にとって環境は支配の対象か,脅威の源泉か,あるいは調和すべき相手かといった仮定である.その組織の戦略志向性,中核的使命,組織として環境のどの部分に注意配分すべきか,などを最も根源的なレベルから規定する.
2現実・真実についての認知パターン:この仮定には,なにが「現実」であり何が
そうでないか,「事実」とはいかなるものか,またいかにして知りうるのか,あるいは「真実」は発見されるものか啓示されるものかなどについての考え方や,時間,空間の概念などが含まれる.これらは,問題は何か,関連情報をどう定義するか,いつ行為の決定や実行に必要な情報が揃ったと判断するのか,といったことを規定する.また「時間」についての仮定は,その組織メンバーの過去・現在・未来に対する志向・態度に影響を与え,空間概念はコミュニケーションの手段や頻度,さらに内容にまで影響を与える.
3人間の本性についての認知パターン:「人間」であるということは何を意味して
いるか,人間において「究極的」・「本能的」なものはなにか,人間の本性は善か悪か,中立かなどについての仮定.これらは経営管理の根本的な前提であり,組織構造,報酬,動機づけ,人材開発などのシステム,されに組織の境界を決定する根源的な基準を提供する.
4人間の行為についての認知パターン:この仮定には,人間がすべき正しいことは
何が,積極的に行動すべきか,受動的であるべきか,何か仕事で何が遊びかなどについての合意が含まれる.これらの仮定は,環境についての認知や真実についての考え方を一部反映しているが,より人間行動の内容と目的に重点が置かれている.
5人間関係の本質についての認知パターン:人が他人と接する場合の正しい仕方,
権力や愛を配分する正しい仕方,人間はお互いに助け合うものか競争的か,個人主義的か,集団協調(集団主義)的か,共同体(集合主義)か,伝統的な権威,,法律,あるいはカリスマにもとづいての合意が含まれる.これらは集団の内部環境ともっぱら関係し,人間の本性についての仮定を反映しつつ,権力,影響力(要請),階層,親密度,愛,仲間関係,などの問題を解決する. Adapted from E.H.Schein ,op.cit.,p.86.
相互に関連のある一連の仮定
仮定の分析の最終の,多分,最も難しい側面は,それらがお互いに縄の目のようになってパラダイムや一貫したパターンを形成している度合いと関係している.すべての仮定が相互に矛盾のない一貫性のあるものであるとは限らない.もし,人間の頭の中に秩序や一貫性を求める認知の欲求があれば,人間のグループは,相互に矛盾のない一貫した一連の仮定を徐々に身につけようになると仮定できる.
このような意味でこれらの基礎的諸仮定のディメンション (Dimention)を「文化パラダイム」(cultural paradigm)ということもある.したがって,この基礎的仮定の一部分だけを用いて,組織文化を分類することは必ずしも適当ではない.もし組織は複数の異なる文化をもつサブ組織からなる複合組織である場合,組織はある基準に基づき,機能を果たして基本的問題を解決することができる.
実務の観点から,労使の交渉 (bargaining)をみるとき,次のことを問うことができる.すなわち,交渉中の各グループが独自の文化を築き上げているかどうか,それらの文化が相互理解を可能にするほど十分に共通部分をもっているかどうか,もしもっていなければ,どのようにして十分な共通の文化が,誠実な交渉や問題解決を可能にするように創り上げられるか,などの質問である.資本主義システムの有効性,権威の合理的・法的基盤,社会階層体系の開放状態,そしてその組織が創り出している製品・サービスの価値などに関する一連の共有の仮定が存在するとき,企業における労使の交渉は,よりスピーデイに進行し,相互により満足度の高い解決をもたらすようにみえる.(多国籍組織では,この種の交渉に,グループ間の問題が,国の文化の違いの問題と重ねて,より一層,複雑になるだろう).
組織文化の公式的な定義は,文化とは何か,を伝えることができでも,文化がはじめに集団の中でダイナミックスを理解するためにどんな機能を果たすのか,どのように発生し,進化し,変化するか,などの疑問に対して理解できれば,組織を「戦略的」つまり効率的(efficacious)かつ協働的(collaborative)経営したいと思うあらゆる願望のためのよりよい基盤をも用意することになる.
文化の役割はグループの次のような基本的問題を解決することにある.すなわち(1)外的環境の中での生き残りと適応,(2)生き残り,適応し続ける能力を確保するための内部プロセスの統合,である.(Parsons,1951; Merton,1957)
それでは,組織が時間の流れの中で諸状況に適応しながら存続・発展していく諸過程にはどのようなものがかんがえられるであろうか.
経営戦略と組織文化の関連を説明するためには,経営組織が戦略形成から実行,評価の過程に至るまでに文化の役割を考察する必要があり,また,文化は,ダイナミックなプロセスなので,これらの機能は持続し,繰り返される.「組織文化」は組織のより永続的で意味のある一連の活動に基礎を置くべきである.
同じ客観的環境を異なる仕方で理解する集団が複数ある場合,その差異は,まさに「組織文化」こそが意味決定の拠所として利用される知識であり,組織化のプロセスを人々の認知的レベルから規定する要因であるとともに,またそれ自体が組織化の産物であるという認識にもとづいている.
すでに言及されているように,「組織文化」は「ある集団が,外部適応と内部統合に関する諸問題の解決を学習する際に,発明・発見・開発してきた基礎的仮定のパターンであり,良く機能するがゆえに現在でも有効だと考えられており,したがって新しいメンバーにもそうした問題に接したときの正しい認識の仕方,思考方法,正しい感じ方として教え込まれるものである」(E.H.Schein,1985:9) Schein によれば「組織文化」は,その本質である基礎的仮定のパターン (a pattern of basic assumptions)を中心に,図 2-1 に示すような3つのレベルで分析できるという. 図 2-1 組織文化のレベルと相互関係
Adapted from Schein, op.ct.,p.14.
第1のレベルは研究者や組織メンバーが,直接に観察・経験できる「作られた現象」(artifact)レベルの組織文化である.たとえば組織メンバーの行動パターンや,組織内で使用される特異的(idiosyucratic)言語・コード・シンボル,物理的空間配置,関係的なネットワーク,組織における人口統計上の変動などが含まれる.このレベルの文化はさまざまなバリェーションと複雑性をもっているため,組織メンバーの行動パターンがどのようであるかを知ることはできても,いったいなぜそのように振る舞うのかを知ることは,必ずしも容易ではない.
組織メンバーがある仕方で行動するその理由を解明するには,第2のレベルの組織文化,すなわち人々の行動を支配する「価値」(value)を解明しなければならない.あらゆる文化現象は,価値を裏付ける物語が存在する場合や,価値の背後に存在する仮定が明確化されているときにはじめて,実際にとられた行動の一連の合理的解釈ができる.つまり,誰かによって作られた価値は「いかにあるべきか」(should)についての信念や知識を反映しているからである.これらの諸価値には,その妥当性が上位目標や現実の結果によって判定できる客観的なものと,メンバー間の社会的コンセンサスによってのみ判定できる社会的なものとがある.しかし,人が,価値をおき,実行しようとすることの底流にある仮定のパターンが人々の行為を規定する真の要因を解明するには,さらに掘り下げた分析が必要である.
組織文化を真に理解し,観察される諸行為や 「作られた現象」 を完全に解明するには,当該組織メンバーにほとんど「前意識的」(preconscions)なレベルで「当然のこと」として考えられていて,彼らの知覚や思考,感じ方を根源的に規定している基礎的仮定のパターンを明らかにする必要がある.
Schein の研究成果に従って,エッセンシャルな意味の「組織文化」,すなわち基礎的仮定のパターン(a pattern of basic assumptions)には,
(1) 環境との関係についての認知パターン
(2) 真実・現実 についての認知パターン
(3) 人間の本性についての認知パターン
(4) 人間の行動についての認知パターン
(5) 人間関係についての認知パターン,が含まれる これらの基礎的仮定のパターン(認知/思考パターン)のうち,(1) と (2) は組織文化における環境創出過程に,また (3),(4),(5) は連結行動のあり方に,それぞれより密接に関わっていることがわかる.このことはこれらの基礎的諸仮定が,多義的情報から意味を抽出するための方法論となっていることを意味している.
(表 2-1)
表 2-1 基礎的諸仮定(認知パターン)
____________________________________________________________________________
1環境との関係についての認知パターン:組織レベルで中核的メンバーが合意して
いる組織と環境との関係についての考え方.たとえばその組織にとって環境は支配の対象か,脅威の源泉か,あるいは調和すべき相手かといった仮定である.その組織の戦略志向性,中核的使命,組織として環境のどの部分に注意配分すべきか,などを最も根源的なレベルから規定する.
2現実・真実についての認知パターン:この仮定には,なにが「現実」であり何が
そうでないか,「事実」とはいかなるものか,またいかにして知りうるのか,あるいは「真実」は発見されるものか啓示されるものかなどについての考え方や,時間,空間の概念などが含まれる.これらは,問題は何か,関連情報をどう定義するか,いつ行為の決定や実行に必要な情報が揃ったと判断するのか,といったことを規定する.また「時間」についての仮定は,その組織メンバーの過去・現在・未来に対する志向・態度に影響を与え,空間概念はコミュニケーションの手段や頻度,さらに内容にまで影響を与える.
3人間の本性についての認知パターン:「人間」であるということは何を意味して
いるか,人間において「究極的」・「本能的」なものはなにか,人間の本性は善か悪か,中立かなどについての仮定.これらは経営管理の根本的な前提であり,組織構造,報酬,動機づけ,人材開発などのシステム,されに組織の境界を決定する根源的な基準を提供する.
4人間の行為についての認知パターン:この仮定には,人間がすべき正しいことは
何が,積極的に行動すべきか,受動的であるべきか,何か仕事で何が遊びかなどについての合意が含まれる.これらの仮定は,環境についての認知や真実についての考え方を一部反映しているが,より人間行動の内容と目的に重点が置かれている.
5人間関係の本質についての認知パターン:人が他人と接する場合の正しい仕方,
権力や愛を配分する正しい仕方,人間はお互いに助け合うものか競争的か,個人主義的か,集団協調(集団主義)的か,共同体(集合主義)か,伝統的な権威,,法律,あるいはカリスマにもとづいての合意が含まれる.これらは集団の内部環境ともっぱら関係し,人間の本性についての仮定を反映しつつ,権力,影響力(要請),階層,親密度,愛,仲間関係,などの問題を解決する. Adapted from E.H.Schein ,op.cit.,p.86.
相互に関連のある一連の仮定
仮定の分析の最終の,多分,最も難しい側面は,それらがお互いに縄の目のようになってパラダイムや一貫したパターンを形成している度合いと関係している.すべての仮定が相互に矛盾のない一貫性のあるものであるとは限らない.もし,人間の頭の中に秩序や一貫性を求める認知の欲求があれば,人間のグループは,相互に矛盾のない一貫した一連の仮定を徐々に身につけようになると仮定できる.
このような意味でこれらの基礎的諸仮定のディメンション (Dimention)を「文化パラダイム」(cultural paradigm)ということもある.したがって,この基礎的仮定の一部分だけを用いて,組織文化を分類することは必ずしも適当ではない.もし組織は複数の異なる文化をもつサブ組織からなる複合組織である場合,組織はある基準に基づき,機能を果たして基本的問題を解決することができる.
実務の観点から,労使の交渉 (bargaining)をみるとき,次のことを問うことができる.すなわち,交渉中の各グループが独自の文化を築き上げているかどうか,それらの文化が相互理解を可能にするほど十分に共通部分をもっているかどうか,もしもっていなければ,どのようにして十分な共通の文化が,誠実な交渉や問題解決を可能にするように創り上げられるか,などの質問である.資本主義システムの有効性,権威の合理的・法的基盤,社会階層体系の開放状態,そしてその組織が創り出している製品・サービスの価値などに関する一連の共有の仮定が存在するとき,企業における労使の交渉は,よりスピーデイに進行し,相互により満足度の高い解決をもたらすようにみえる.(多国籍組織では,この種の交渉に,グループ間の問題が,国の文化の違いの問題と重ねて,より一層,複雑になるだろう).
組織文化の公式的な定義は,文化とは何か,を伝えることができでも,文化がはじめに集団の中でダイナミックスを理解するためにどんな機能を果たすのか,どのように発生し,進化し,変化するか,などの疑問に対して理解できれば,組織を「戦略的」つまり効率的(efficacious)かつ協働的(collaborative)経営したいと思うあらゆる願望のためのよりよい基盤をも用意することになる.
文化の役割はグループの次のような基本的問題を解決することにある.すなわち(1)外的環境の中での生き残りと適応,(2)生き残り,適応し続ける能力を確保するための内部プロセスの統合,である.(Parsons,1951; Merton,1957)
それでは,組織が時間の流れの中で諸状況に適応しながら存続・発展していく諸過程にはどのようなものがかんがえられるであろうか.
経営戦略と組織文化の関連を説明するためには,経営組織が戦略形成から実行,評価の過程に至るまでに文化の役割を考察する必要があり,また,文化は,ダイナミックなプロセスなので,これらの機能は持続し,繰り返される.「組織文化」は組織のより永続的で意味のある一連の活動に基礎を置くべきである.
コメント