パターン認識

人間にはすぐれたパターン認識(pattern recognition)の能力が備わっている.しかし脳というものを考える際には,自己組織化のモデルにはいくつかの興味深い例があるが,その情報処理の原理についてはまだ十分な理解に達しているとはいえない.
コンピュータシミュレーションで自己組織が可能であることを示したのは, Von deer Salzburg(1973)である.また,認識細胞の自己組織による形成についても Will-Shaw & Von deer Salzburg(1976)のモデル, Atari & Takeuchi(1978), Takeuchi & Atari(1979), Atari(1980)の一連の仕事は,今日のニューラルモデルの数学解析の中で,神経場の興奮パターンのダイナミックスと自己組織のダイナミックスを融合した最も精緻なものと思われている.
ただ,認知機能レベルでの学習がすべて情報処理的アプロチで説明できるかどうかは疑問である.大脳の中には,インデックス,シンボル,サインなど決まった信号というものはない.さまざまな状況に応じて意味をもたらす活動のパターンがあるだけである.(Israel Rosen Field,1988).
レジ係りやドライバー,大工や教師,管理職,チェスの名手.どんな分野の専門家にしても,生まれつき円熟した技能が備わっていたわけではない.指導を受け,経験を積んで技能を獲得といっても,ある日突然,規則に頼る「何であるか」のレベルから経験に裏打ちされた「コツ」のレベルに一足飛びに成長するのではなさそうである.
自転車の例にとって考えてみよう.それは,データと法則をいくら集めても「コツ」は身につかないという事は何を意味するのか.こうしたコツは,からだの一部になりきっている時,ある時突然,コツに見放されてみてはじめて,いかにさまざまの行動がコツのおかげで可能になっていたかを思い知ることになる.「何であるか」の意識が「いかにして」のコツを押しのけるということである.ここで,人間は順応したい一心で判断をくだす,前意識的,反射的な行動を事実と推論で解釈できないところは共通していても,状況に深くかかわって類似性を認識した結果の産物と言える「直観」と混同してはならない.
技能を獲得するにつれて,状況把握の仕方や行動様式を経て変化していくプロセスの最も特徴的なのは,状況を意識的に分解して構成要素を識別する客観的,分析的な行動に始まって,経験の蓄積と,新しい状況のなかに過去の経験との類似性を認めることを基盤に「構成要素を結合して全体像を把握する」エキスパート的行動へと進歩していくことである.つまり,パターンを構成要素を分解せず,全体として直観的に理解する能力や知覚における経験の影響を無視するわけにはいかないのである.
どの研究成果がもっとも有意で,一般化に耐えるかを決めるのは,残念ながら科学の域を越える問題である.例えば,ある化学薬品を大量投与して発ガンするケースがいくつあるかわかっても,同じ薬品を殺虫剤として少量使用した場合に長期的に見て人体にどんな影響があるかを知るうえで,その数字がどんな意味を持つのかとなると,確かなところは誰にもわからない.これは科学者だけの問題に留まらない.裁判官や陪審員もまた,専門家が自分の証言の根拠を合理的に説明することを期待するくせに,見方の対立するなかで適切な判例を指針として事件の核心を見抜く過程では,直観的に選択する.
しかも,そうした選択を,判決文で説明づけることはめったにない.医者は,100%確信できることはめったにないという仕事の特質ゆえに,例えば,これ以上蘇生術を続けるべきかとか,患者に手術を勧めるべきかとうかの判断に迫られると,できるだけ経験的規則と合理的手続に基づいて判断をだしたい気持になるらしい.
意思決定者には,実際の状況が,ありうる状況のうちのどれであるかが確実にはわからないというわけである.分析をしている時点で,現実を知るプロセスをモデル化するために,「事前確率」と呼ばれる概念が導入される.普通はこの先験確率をベイズの定理(Bayer’s Theorem)と呼ばれる公式に従って修正する(現確率を測定し,それをあらかじめわかっている確率と比較して,その値がいちばん近いものを答えとして出力する),しかし,このような純粋な統計的手法だけで問題を解くことには限界がある.人間を情報処理装置の一種とみなすコンピュータ・モデルの限界を見抜くことは,パターンの意味を理解して,パターンが何であるかを理解している人間の認知的情報処理の把握が常道である.

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