経営戦略と組織文化

 過去五十年間に,経営手法の発達によって,組織に利用可能な予測,計画技能の水準は,著しく向上した.大半の企業は,一年間を対象とする予算から三年,五年ないしは十年間を考慮対象期間とする長期計画に移行した.すなわち,企業が必要と感じる期間に対象として計画を作成することができる,という一般的な前提があったのである.
 第一次石油危機以来,さまざまな戦略的な不測の現象は,こうした楽観的な前提に深刻な打撃を与えた.あれほど技術的に卓越し,またそれがゆえに強固不変であると考えられてきた官僚制組織さえ,生存の危機瀕することが多くなる.
 ある組織がもし長期にわたって存続・発展したいと望むならば,不連続的な環境変化に応じて,組織のもつ目的や価値に照し,望ましい方向へ誘導していったらどうであろうか,という考え方が生じてきたのも決して無理からぬことであろう.特に,根源的な変革の時代に入ったところでいるわれわれは,独特性,情報・知識で新たな創造,考え方の転換,長期視野と理念が問われるべきである.
 経営戦略は,ビジョンを与え,革新の主導権をとるという意味では,組織の将来の栄枯盛衰にきわめて重要な役割を演ずるが,組織その自体だけではなく,経営者の運命をも決定づけるのである.ところで,この経営戦略の作成過程においても,さらにはその評価にも重要な役割を演ずるのは組織文化である.今までの考察の目的は,第一に,「組織文化」の概念を明らかにし,第二に,「経営戦略」と組織文化の問題がどのように基本的なところで相互に絡み合っているかを示すことがある.
組織文化の定義問題はが,まず組織における行動主体としての個人という側面に焦点がおかれていきたいと思う.個人における行動 (Behavior)は,以下のように解釈することができる.すなわち,(1) 行動は先天的ならびに後天的な形成された欲求の複合体によってひきおこさるものである.(2) それは環境に対する主体の側の無意識的な反応ではなく,行動主体がみずから設定した目標に志向しているものである.(3) 行動は,主体により認知されたいわゆる「状況」との間に一定の関連をもちながら遂行されていくものである.(稲葉 1979).ここにおいてとりわけ重要な点は,状況は単なる客観的な事実として存在するものではなく,それは行動主体によって認知され,その結果彼の行動になんらかのかたちで介入してくるような,そういった客体を意味するのである.
 さて,経営戦略をどのようにとらえるのかは,各論者によって異なっている.そこで,経営戦略は「企業」にとって自らの基本的方向を定めることであり,変動する環境のなかで,ドメインを設定し,そのための資源配分を行うことをいう.経営戦略の形成や実行(implementation)は,企業とそれに関連する組織との関係と深く結びついており, 経営戦略は企業をとりまく環境の機会,脅威や経営資源の評価,社会の期待, 個人的価値観に基づいて策定される.
 ここで,厳密には戦略の形成と実施との統合をはかる戦略的管理(strategic management)の意味を検討することにしよう.
 第1に,戦略を中心に経営をみていくことである.戦略は「企業」の将来における方向づけを定め,環境変化にたいするフレームワークを与えることである.かかる戦略を中核概念として,経営行動を把握していく.
 第2には,戦略経営は戦略の形成にとまらず,実行をも取り扱うことである.それは戦略策定,実施・コントロールという循環としてとらえ,戦略を統合された全体とみる.それには,戦略と経営 (strategy & administration)が含まれる.戦略的考え方も含む.
 第3に,「企業」と環境との環境を重視することである.それは,戦略を組織の環境適応行動としてとらえる.したがって戦略によって企業-環境関係が調整されることになる.「企業」にとって環境分析や能力が強調される.
 第4に,戦略の策定・実施をつうじて,企業内の各部門の統合をはかることである.そこで戦略経営は「企業」全体の行動を重視し,部分よりも全体としての観点を採用することになる.
 第5に,戦略の公式的システや手続にとどまらないことである.すなわち戦略の公式的・分析的側面ではなく,その政治的・社会的側面を取り扱う.
 第6に,戦略を組織・環境との相互関連において把握することである.戦略の策定・実施は,組織・環境との関連においてとらえられる.
 第7に,戦略経営はトップマネジメントの意思決定を重視する.しかもトップの決定事項として,戦略の策定と実行を強調する.トップの戦略的選択( strategic choice)に焦点をあて,トップによる目的志向的組織の形成を取り扱う.(山倉,1986)
組織文化とはどういうものの問題を研究する時,必ずある種の不安がつきまとう.「文化」という言葉は,多くに意味と含蓄をもっている.この言葉をもう一つの一般的に使われている言葉「組織」と結びつけると,ほとんど間違いなく概念的かつ意味論的混乱に陥ってしまう.だから,どのように「戦略経営」に関係づけられるかを説明する前に,組織文化の概念を理解しなければならない.

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