計画的変革の理論
計画的変革がどのようにして起きるかを理解する上では, Lewin(1952)および Lippitt とその共同研究者 (Lippitt,
Watson & Westley,1958)によって最初に提唱されたモデルから出発するのが最も有益である. Schein はこのモデルをさらにみがき上げ,捕虜の強制的説得から教育場面に起きる現象にいたるさまざまな現象の理解に活用した (Schein,Schneier & Barker,1961;Schein,1961;Schein & Bennis,1965;Schein,1972).このモデルの根底には以下の考え方がある.
1 いかなる変化の過程にも,何か新しいことを学ぶことのみならず,既に存在し,しかもおそらくそのパーソナリティや個人間の社会的関係とよく一体化している何かをやめることが含まれている.
2 本人に変わろうというモチベーションがなければいかなる変化も起きない.もしそうしたモチベーションがないとすれば,そのモチベーションを起こさせることがその変化の過程においては最大の難事である.
3組織構造,過程,誘因制度-incentive system (Rewards,Career Development etc.)
の変更などの組織変革は,その組織の重要なメンバーにおける変化を通してのみ起きる.したがって,組織の変革は常に個人の変化によって仲介される.
4 たいていの成人の変化には態度,価値観,自己像の変化が含まれている.そしてこうしたものをかえることは,本人にとってはもともと本質的に苦痛でもあり脅威でもある.
5 変化は複合段階的なサイクルである.安定した変化が起きるためには,すべての段階がともかく切り抜けられなければならない.
個人の態度変容と組織のプロセスとは同じではない.後者には,リーダーの役割とか,一つのグループから他のグループへの伝染などといった側面があるからである.しかし両者には類似性も多い.まず個人の態度変容プロセスから考えてみよう.
< 変革のプロセス >
段階1:解凍 (unfreeze) - 変化へのモチベーションを創ること
[メカニズム1]
それは,個人の世界観が妥当ではないことを発見するか,あるいは期待した結果を生まないばかりか,望ましくない結果さえ生むということを発見するのである,介入過程をめぐる最も重大な倫理問題は,いつ,その人に不快な情報を与えて不快感を導入するかという事である (注 9-1).
[メカニズム2]
変化を動機づける十分な罪の意識または不安な気持が生まれなければならない.
[メカニズム3]
変化への障壁を縮小するか,過去の失敗を認めることに内在する脅威を減らすかによって心理的な安全感を作り出すことが重要な第3要素である.おそらく,変化を始動させる際の唯一最大の難事は,現在の行動や態度を弱めることに伴う苦痛と,変化できるし,安心して変化に乗り出せるという安心感とをバランスさせることである.
段階2:変化すること (change) - 新しい情報と新しい見方に基づく新しい態度と行動を発展させること.
[メカニズム1]
ロール・モデル(模範的な役割を演ずる人),信頼野おける人との同一視と,そうした人々の立場から物事をみることを学ぶこと.
[メカニズム2]
その人の問題と具体的な関連性を持った情報を与える.その人は関連のある情報だけを活用するし,何を使うかはその人にゆだねられていることは,多くの場合より妥当性のある変化を産む.特記すべきことは,変化は新しい情報と概念を得ることによって促進される一種の認知過程である,ということである.
段階3:再凍結 (refreeze) - 変化を定着させること
[メカニズム1]
人は,新しい態度や行動が本当に自分自身の自己像に合っているかどうか,またそれらを心地よく統合できるかどうかをためす機会を持たなければならない.
[メカニズム2]
人は,自分からみて重要な他の人たちが,その新態度や行動を受け入れ,是認してくれるかどうかをためす機会を持たねばならない.
以上,「変える」ためのアプローチを整理すると,(1)情報アプローチ 新しい価値観や考え方を教える. (2)賞罰アプローチ 考え方を変えれば上役や仲間の賞賛が与えられ,また食事や金銭などの外的報酬も増減するようなことをいう. (3)行動アプローチ 行動の変化によって価値観や考え方を変えさせる.(報酬と行動との関係については,動機づけの理論でひろく考察されている.その簡単なモデルは次のようである (Staw,1976) 動機づけ = 行動の価値+ 結果の価値 × 成功の確率 + 外的報酬の価値 × 得られる確率 )(注9-2)
組織的なプロセスのモデルとして,Dyer(1985)のモデルをふまえて,変革する側からみて,
(1)組織,人事制度の変化および各種の運動 (賞罰アプローチ)
(2)経営理念の変化 (情報アプローチ)
(3)新戦略の実行 (行動アプローチ)
(4)トップの交替
(5)環境の操作
どんな種類の変革が現実可能かということは,単に組織の発達段階によるだけでなく,外部から襲ってくる危機か変革に向かう内部的力のどちらかにより組織がどの程度解凍さっれ,変革への用意ができているかにもかかっている.与えられた文化の解凍を解く力もまた,組織の発達段階が異なるにしたがい相違のあるのが普通であって,ある種の変革メカニズムは,ある発達段階に特別の関連性をもつ.
変革は一つのジレンマが存在する.つまり,いかなる要素を変革するにも,リーダーは進んで組織を解凍する意欲をもたなければならない.解凍には不当性の立証 - 多くの人々に不可避的苦痛を与える - が必要である(価値観が多様で,かつ深い人は変えにくい,信念の強い人,自己主張の強い人は変えにくい.例えば政治上の信念を強くもつ指導者が迫害に耐えるのはこのためである).というのは,リーダーとしては,変革がもたらす不安の多くを吸収する情緒面の強靭さが必要であり,たとえ集団成員が怒りかつ妨害したとしても,移行局面を通じ組織を支え続ける能力をもつことが必要だという意味である.それは,状況がさらに悪化するかもしれないという未知の領域に押し入るだけの強さをもたなければならない.
[注9-1]
兵士が国のために命を投げ出すのも辞さない状況は,どうやって作り出されるだろうか.戦場で,もし各々の兵士が命を賭けることの損得を理性的に計算し出したら軍隊は終わりだろう.兵士を誘導するには何か仕組みが要り,ここでは,まず新兵訓練から探ってみよう.
軍隊の最初の訓練は非常に不快さを与えるものだ.新兵は手荒く扱われ,辱めを受け,強烈な肉体的,精神的緊張の下に置かれる.数週間で人格が変わる.この過程で重要なのは,命令には疑問を持たず,自動的に従うことを習慣として植え付けることだ.なぜ,靴下をたたんだりベドメーキングするのをあるやり方で行うか,それには,上官がそう命令したという以外理由はない.この方法は,命令がもっと重要なものである場合にも同じように服従するだろう,ということを前提としている.
命令に疑問を持たないように訓練すれば,軍隊は戦う機械になる.実行の確約は自動的に確保される.こうして各兵士の非合理性は戦略的合理性に変わる.
以上のように,実行の確約を達成する方法は3つの原則を裏付けとしている.
1 両者とも確約したことを破ると,実行した場合より高くつく,という状況を作り出すこと.
2 確約したことから後戻りできない余地を減らすようにすること.
3 他者を介在させることである.
Watson & Westley,1958)によって最初に提唱されたモデルから出発するのが最も有益である. Schein はこのモデルをさらにみがき上げ,捕虜の強制的説得から教育場面に起きる現象にいたるさまざまな現象の理解に活用した (Schein,Schneier & Barker,1961;Schein,1961;Schein & Bennis,1965;Schein,1972).このモデルの根底には以下の考え方がある.
1 いかなる変化の過程にも,何か新しいことを学ぶことのみならず,既に存在し,しかもおそらくそのパーソナリティや個人間の社会的関係とよく一体化している何かをやめることが含まれている.
2 本人に変わろうというモチベーションがなければいかなる変化も起きない.もしそうしたモチベーションがないとすれば,そのモチベーションを起こさせることがその変化の過程においては最大の難事である.
3組織構造,過程,誘因制度-incentive system (Rewards,Career Development etc.)
の変更などの組織変革は,その組織の重要なメンバーにおける変化を通してのみ起きる.したがって,組織の変革は常に個人の変化によって仲介される.
4 たいていの成人の変化には態度,価値観,自己像の変化が含まれている.そしてこうしたものをかえることは,本人にとってはもともと本質的に苦痛でもあり脅威でもある.
5 変化は複合段階的なサイクルである.安定した変化が起きるためには,すべての段階がともかく切り抜けられなければならない.
個人の態度変容と組織のプロセスとは同じではない.後者には,リーダーの役割とか,一つのグループから他のグループへの伝染などといった側面があるからである.しかし両者には類似性も多い.まず個人の態度変容プロセスから考えてみよう.
< 変革のプロセス >
段階1:解凍 (unfreeze) - 変化へのモチベーションを創ること
[メカニズム1]
それは,個人の世界観が妥当ではないことを発見するか,あるいは期待した結果を生まないばかりか,望ましくない結果さえ生むということを発見するのである,介入過程をめぐる最も重大な倫理問題は,いつ,その人に不快な情報を与えて不快感を導入するかという事である (注 9-1).
[メカニズム2]
変化を動機づける十分な罪の意識または不安な気持が生まれなければならない.
[メカニズム3]
変化への障壁を縮小するか,過去の失敗を認めることに内在する脅威を減らすかによって心理的な安全感を作り出すことが重要な第3要素である.おそらく,変化を始動させる際の唯一最大の難事は,現在の行動や態度を弱めることに伴う苦痛と,変化できるし,安心して変化に乗り出せるという安心感とをバランスさせることである.
段階2:変化すること (change) - 新しい情報と新しい見方に基づく新しい態度と行動を発展させること.
[メカニズム1]
ロール・モデル(模範的な役割を演ずる人),信頼野おける人との同一視と,そうした人々の立場から物事をみることを学ぶこと.
[メカニズム2]
その人の問題と具体的な関連性を持った情報を与える.その人は関連のある情報だけを活用するし,何を使うかはその人にゆだねられていることは,多くの場合より妥当性のある変化を産む.特記すべきことは,変化は新しい情報と概念を得ることによって促進される一種の認知過程である,ということである.
段階3:再凍結 (refreeze) - 変化を定着させること
[メカニズム1]
人は,新しい態度や行動が本当に自分自身の自己像に合っているかどうか,またそれらを心地よく統合できるかどうかをためす機会を持たなければならない.
[メカニズム2]
人は,自分からみて重要な他の人たちが,その新態度や行動を受け入れ,是認してくれるかどうかをためす機会を持たねばならない.
以上,「変える」ためのアプローチを整理すると,(1)情報アプローチ 新しい価値観や考え方を教える. (2)賞罰アプローチ 考え方を変えれば上役や仲間の賞賛が与えられ,また食事や金銭などの外的報酬も増減するようなことをいう. (3)行動アプローチ 行動の変化によって価値観や考え方を変えさせる.(報酬と行動との関係については,動機づけの理論でひろく考察されている.その簡単なモデルは次のようである (Staw,1976) 動機づけ = 行動の価値+ 結果の価値 × 成功の確率 + 外的報酬の価値 × 得られる確率 )(注9-2)
組織的なプロセスのモデルとして,Dyer(1985)のモデルをふまえて,変革する側からみて,
(1)組織,人事制度の変化および各種の運動 (賞罰アプローチ)
(2)経営理念の変化 (情報アプローチ)
(3)新戦略の実行 (行動アプローチ)
(4)トップの交替
(5)環境の操作
どんな種類の変革が現実可能かということは,単に組織の発達段階によるだけでなく,外部から襲ってくる危機か変革に向かう内部的力のどちらかにより組織がどの程度解凍さっれ,変革への用意ができているかにもかかっている.与えられた文化の解凍を解く力もまた,組織の発達段階が異なるにしたがい相違のあるのが普通であって,ある種の変革メカニズムは,ある発達段階に特別の関連性をもつ.
変革は一つのジレンマが存在する.つまり,いかなる要素を変革するにも,リーダーは進んで組織を解凍する意欲をもたなければならない.解凍には不当性の立証 - 多くの人々に不可避的苦痛を与える - が必要である(価値観が多様で,かつ深い人は変えにくい,信念の強い人,自己主張の強い人は変えにくい.例えば政治上の信念を強くもつ指導者が迫害に耐えるのはこのためである).というのは,リーダーとしては,変革がもたらす不安の多くを吸収する情緒面の強靭さが必要であり,たとえ集団成員が怒りかつ妨害したとしても,移行局面を通じ組織を支え続ける能力をもつことが必要だという意味である.それは,状況がさらに悪化するかもしれないという未知の領域に押し入るだけの強さをもたなければならない.
[注9-1]
兵士が国のために命を投げ出すのも辞さない状況は,どうやって作り出されるだろうか.戦場で,もし各々の兵士が命を賭けることの損得を理性的に計算し出したら軍隊は終わりだろう.兵士を誘導するには何か仕組みが要り,ここでは,まず新兵訓練から探ってみよう.
軍隊の最初の訓練は非常に不快さを与えるものだ.新兵は手荒く扱われ,辱めを受け,強烈な肉体的,精神的緊張の下に置かれる.数週間で人格が変わる.この過程で重要なのは,命令には疑問を持たず,自動的に従うことを習慣として植え付けることだ.なぜ,靴下をたたんだりベドメーキングするのをあるやり方で行うか,それには,上官がそう命令したという以外理由はない.この方法は,命令がもっと重要なものである場合にも同じように服従するだろう,ということを前提としている.
命令に疑問を持たないように訓練すれば,軍隊は戦う機械になる.実行の確約は自動的に確保される.こうして各兵士の非合理性は戦略的合理性に変わる.
以上のように,実行の確約を達成する方法は3つの原則を裏付けとしている.
1 両者とも確約したことを破ると,実行した場合より高くつく,という状況を作り出すこと.
2 確約したことから後戻りできない余地を減らすようにすること.
3 他者を介在させることである.
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